定員・利用率分析（2023年9月版）
概要
本分析は、2023年9月時点の障害福祉サービス事業所データから、定員規模別の運営効率と収益性を詳細に分析したものです。2023年3月データとの比較も交え、通所・日中活動系サービスと居住・入所系サービスを中心とした総定員1,127,119名を有するサービスの定員設定戦略と、規模に応じた最適な運営手法を事業者の視点から検証します。
定員規模別施設分布
全体の定員構成（2023年9月）
| 規模区分 | 施設数 | 構成比 | 平均定員 | 総定員 |
|---|---|---|---|---|
| 大規模（30名以上） | 9,116施設 | 14.6% | 50.4名 | 459,446名 |
| 中規模（11-30名） | 19,625施設 | 31.4% | 19.3名 | 378,763名 |
| 小規模（1-10名） | 33,755施設 | 54.0% | 8.6名 | 290,290名 |
前期比較による変化
| 規模区分 | 施設数増減 | 構成比変化 | 平均定員変化 |
|---|---|---|---|
| 大規模 | +138施設 | -0.5pt | -0.2名 |
| 中規模 | +1,011施設 | +0.1pt | 変更なし |
| 小規模 | +1,795施設 | +0.3pt | +0.1名 |
分析結果: 小規模施設の増加傾向がさらに加速し、大規模施設の相対的シェアは減少。市場全体の小規模・分散型へのシフトが鮮明になっています。特に児童系サービスと就労支援系サービスでこの傾向が顕著です。
サービス別定員分析
高定員サービス（平均30名以上）
療養介護（平均定員82.4名）
- 成長傾向: 安定維持（施設数+0.8%、定員+0.9%）
- 運営主体: 医療法人（42.7%）、社会福祉法人（41.5%）
- 地域特性: 地方都市での設置率が高い
- 収益の鍵: 医療ケアと福祉サービスの一体的提供
- 最適定員: 60-100名（医療体制の確保と経済効率のバランス）
医療型障害児入所施設（平均定員75.5名）
- 成長傾向: ほぼ横ばい（施設数+1.5%、定員+1.1%）
- 運営主体: 医療法人（53.2%）、社会福祉法人（28.9%）
- 地域特性: 都道府県庁所在地を中心に分布
- 収益の鍵: 専門医療スタッフの確保と多職種連携
- 最適定員: 50-80名（医療体制の維持と個別ケアのバランス）
施設入所支援（平均定員48.2名）
- 成長傾向: 微増（施設数+0.2%、定員+0.4%）
- 運営主体: 社会福祉法人（86.7%）
- 地域特性: 地方部に多く分布
- 収益の鍵: 生活介護との一体的運営と効率的人員配置
- 最適定員: 40-60名（日中活動との連携効率と個別支援の質のバランス）
中定員サービス（平均10-30名）
生活介護（平均定員24.8名）
- 成長傾向: 安定成長（施設数+2.9%、定員+2.5%）
- 運営主体: 社会福祉法人（62.3%）、NPO法人（12.8%）
- 地域特性: 全国的に均等に分布
- 収益の鍵: 医療的ケアの提供と専門プログラムの充実
- 最適定員: 20-30名（個別支援の質と経営効率のバランス）
福祉型障害児入所施設（平均定員29.1名）
- 成長傾向: 微減（施設数-0.4%、定員-0.2%）
- 運営主体: 社会福祉法人（89.7%）
- 地域特性: 人口集積地に多く分布
- 収益の鍵: 専門的支援プログラムと教育機関との連携
- 最適定員: 25-35名（支援の専門性と経営基盤のバランス）
自立訓練(機能訓練)（平均定員15.4名）
- 成長傾向: 横ばい（施設数±0%、定員+0.3%）
- 運営主体: 社会福祉法人（46.7%）、医療法人（23.3%）
- 地域特性: 都市部での設置が多い
- 収益の鍵: リハビリ専門職の確保と医療機関との連携
- 最適定員: 12-18名（専門的支援の質と収支のバランス）
小定員サービス（平均10名未満）
放課後等デイサービス（平均定員8.5名）
- 成長傾向: 高成長（施設数+6.2%、定員+5.8%）
- 運営主体: 株式会社（47.8%）、NPO法人（17.2%）
- 地域特性: 都市部・郊外の住宅地に集中
- 収益の鍵: 送迎範囲の最適化と特色ある活動プログラム
- 最適定員: 8-10名（個別支援の質と運営効率のバランス）
児童発達支援（平均定員9.3名）
- 成長傾向: 高成長（施設数+8.4%、定員+7.9%）
- 運営主体: 株式会社（42.5%）、NPO法人（19.6%）
- 地域特性: 都市部を中心に全国展開
- 収益の鍵: 専門性の高いプログラム提供と保護者支援
- 最適定員: 8-10名（発達支援の質と経営効率のバランス）
短期入所（平均定員5.2名）
- 成長傾向: 安定成長（施設数+4.4%、定員+3.8%）
- 運営主体: 社会福祉法人（58.2%）、NPO法人（14.7%）
- 地域特性: 入所施設併設型と単独型で地域差
- 収益の鍵: 緊急受入体制の確保と稼働率の向上
- 最適定員: 4-6名（緊急対応能力と運営効率のバランス）
定員規模別の運営効率分析
大規模施設（30名以上）の運営特性
経営効率
- スケールメリット: 人件費率の低減（小規模比-3.8pt）
- 固定費効果: 利用者あたり管理コストの低減
- 稼働率: 平均87.3%（全体平均+2.5pt）
課題と戦略
- 固定費の増大リスク: 定期的な収支構造の見直しが必要
- 人員配置の複雑さ: シフト管理システムの活用
- 個別支援の質の確保: ユニット制やチーム制の導入
- 地域環境の変化への脆弱性: 多機能化による対応力強化
成功事例
- 複数サービス複合型の大規模拠点
- 地域生活支援拠点としての機能特化
- 専門職チームによる高度支援モデル
中規模施設（11-30名）の運営特性
経営効率
- バランス型: 固定費と変動費のバランスの取れた構造
- 専門職配置: 一定の専門職確保が可能な規模
- 稼働率: 平均85.7%（全体平均+0.9pt）
課題と戦略
- 差別化の必要性: 特色あるプログラム開発
- 人材確保の競争: 働きやすい環境整備と育成システム
- 施設維持コスト: 適切な設備投資計画
- 地域連携の重要性: 関係機関とのネットワーク構築
成功事例
- 地域特性に合わせた特化型サービス
- 複合サービス提供による相乗効果
- 特定専門分野に特化した支援モデル
小規模施設（1-10名）の運営特性
経営効率
- 変動費重視型: 人件費比率が高い（大規模比+4.2pt）
- 固定費抑制: 小規模施設・設備での運営
- 稼働率: 平均83.9%（全体平均-0.9pt）
課題と戦略
- 収益変動リスク: 関連サービスとの複合展開
- 専門性の確保: 外部専門家との連携
- 運営者負担: 管理業務のICT化・外部委託
- 競争激化: 地域密着型の独自サービス確立
成功事例
- 徹底した地域密着型の小規模多機能施設
- 特定ニーズに応える専門特化型サービス
- 他事業所とのネットワーク型運営
定員設定の実践的アプローチ
サービス別最適定員の設定基準
児童系サービス
- 放課後等デイサービス: 基本10名以下（障害特性により5-10名）
- 児童発達支援: 基本10名以下（年齢層により5-10名）
- 医療型児童発達支援: 専門性に応じて5-8名
就労系サービス
- 就労移行支援: 地域雇用環境により15-20名
- 就労継続支援A型: 事業内容により10-20名
- 就労継続支援B型: 作業内容により15-25名
入所・居住系サービス
- 共同生活援助: ユニット型4-8名×複数ユニット
- 施設入所支援: 支援区分に応じて20-60名
- 短期入所: 併設型4-6名、単独型6-10名
定員変更の戦略的判断
段階的拡大の条件
- 安定した利用率: 3か月以上90%超の稼働
- 安定した収益: 人件費率65%以下の維持
- 人材の確保: 増員に対応できる人材の目途
- 設備の余裕: 定員増に対応可能なスペース
拡大プロセスの実践例
- 準備期間: 6か月前から計画策定
- 段階的拡大: 20%増を基本とした段階的拡大
- リスク対策: 半年間の収支シミュレーション実施
- 自治体調整: 地域自立支援協議会への情報提供
定員縮小の判断基準
- 継続的な低稼働: 6か月以上80%未満の稼働
- 収益悪化: 人件費率70%超の継続
- 地域需要の変化: 利用ニーズの明確な減少
- 質の向上必要性: 支援の質確保のための適正化
今後の定員戦略のトレンド
2023-2024年の動向予測
- 小規模分散型の継続: 10名未満の小規模事業所が増加傾向
- 多機能型の推進: 複数サービスの組み合わせによる効率化
- 地域特性の重視: 都市部と地方での差別化戦略
- リモート活用: 一部サービスでのオンライン対応導入
環境変化への対応
-
デジタル化の影響
- ICT活用による効率的な小規模運営
- 複数拠点の一体的管理システム導入
- オンライン支援と対面支援の併用モデル
-
人材確保と定員のバランス
- 人材確保状況に応じた定員調整
- 多様な働き方に対応した人員配置
- 専門職の効率的活用のための拠点間連携
-
事業継続性の視点
- 安定収益確保のための最適規模の検討
- 緊急時対応を考慮した余力の確保
- 長期的な事業計画に基づく段階的調整
まとめ
2023年9月時点の定員・利用率分析から、障害福祉サービス事業の効果的な運営には、サービス特性と地域ニーズに適合した最適な定員設定が不可欠であることが確認できました。全体として小規模・分散型へのシフトが継続している中、サービス種別ごとの特性を踏まえた定員設計と、それに応じた運営体制の構築が重要です。
事業者には、単に制度上の上限に合わせるのではなく、質の高い支援提供と経営の安定性を両立させる観点から、地域特性・利用者ニーズ・人材確保状況などを総合的に考慮した定員設定が求められます。特に、専門性の確保と収益性のバランスを考慮した戦略的な定員管理が、今後の事業成功の鍵となるでしょう。
本分析は2023年9月時点のデータに基づき、定員規模別の運営特性と最適化戦略を分析しています。定員設定時は地域特性、競合状況、運営方針を総合的に検討することをお勧めします。