障害福祉サービスガイド

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地域別市場分析(2024年3月版)

概要

本稿では、2024年3月時点の障害福祉サービス市場を地域別に分析し、都道府県ごとの施設数分布、都市部と地方部の特徴、および今後の地域戦略の方向性について考察します。2023年9月データとの比較も交え、変化のポイントを明らかにします。

都道府県別 施設数ランキング

施設数が最も多い上位5都道府県は以下の通りです。

  1. 大阪府: 22,607施設(構成比 12.9%)
  2. 東京都: 11,607施設(構成比 6.6%)
  3. 愛知県: 10,902施設(構成比 6.2%)
  4. 北海道: 10,285施設(構成比 5.8%)
  5. 神奈川県: 9,160施設(構成比 5.2%)

この上位5都道府県で、全国の施設数の約4割(36.7%)を占めています。特に大阪府の施設数は突出しており、2位の東京都の約2倍に達しています。

増加率が高い都道府県(前回比)

  1. 山梨県: +14.5%
  2. 大阪府: +10.2%
  3. 岐阜県: +9.7%
  4. 愛知県: +9.3%
  5. 香川県: +8.9%

大都市を抱える都府県だけでなく、中規模県でも高い増加率を示す地域があり、市場の成長が全国に広がっていることが伺えます。

地域ブロック別分析

大都市圏の動向

  • 対象: 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、京都府
  • 施設数: 68,752施設
  • 全国比: 39.1%

大都市圏では、人口の集中を背景に多様なサービスが提供されています。特に、訪問系サービスや児童系サービス、就労移行支援の事業所が集中する傾向にあります。競争が激しい一方で、専門性の高いサービスやニッチなニーズに対応する事業所に成長の機会があります。

大都市圏の特徴的なデータ

  • 人口10万人あたり施設数: 115.3施設(全国平均: 139.7施設)
  • サービス種別構成比(上位3種):
    1. 居宅介護: 14.1%(全国平均: 12.7%)
    2. 重度訪問介護: 14.0%(全国平均: 10.9%)
    3. 放課後等デイサービス: 11.9%(全国平均: 11.3%)

大都市圏では、人口当たりの施設数は少ないものの、訪問系サービスの割合が高く、効率的なサービス提供が行われています。また、保育所等訪問支援(+17.2%)や医療的ケア児支援(+15.8%)など、専門性の高いサービスの成長率が特に高い傾向にあります。

大都市圏の市場特性

  • 競争環境: 事業所密度が高く、利用者獲得競争が激しい
  • 人材市場: 採用難易度が高く、人件費が高騰する傾向
  • 利用者特性: 多様なニーズと高い選択眼を持った利用者が多い
  • 行政動向: 地域包括ケアシステムへの移行が先進的に進む

地方部の特徴

  • 施設数: 107,077施設
  • 全国比: 60.9%

地方部では、人口あたりのサービス密度が高い地域も見られます。これは、地域社会のインフラとして障害福祉サービスが根付いていることを示しています。特に、生活介護や共同生活援助、施設入所支援といった居住系・日中活動系サービスの重要性が高い傾向にあります。

一方で、専門人材の不足や交通アクセスの問題から、提供できるサービスに限りがある地域も少なくありません。今後は、オンライン支援や巡回指導など、地理的制約を克服するサービスモデルが求められます。

地方部の特徴的なデータ

  • 人口10万人あたり施設数: 162.5施設(全国平均: 139.7施設)
  • サービス種別構成比(上位3種):
    1. 放課後等デイサービス: 10.8%(全国平均: 11.3%)
    2. 就労継続支援B型: 10.7%(全国平均: 9.4%)
    3. 居宅介護: 9.7%(全国平均: 12.7%)

地方部では、就労継続支援B型や共同生活援助(+11.2%)の割合と成長率が高く、地域生活と就労の機会を地域内で完結させる「地域完結型」のサービス提供が特徴です。

地方部の市場特性

  • 競争環境: 事業所間の距離が物理的に離れており、地域内では競合が少ない
  • 人材市場: 専門職の確保が課題だが、定着率は比較的高い
  • 利用者特性: 地域内での選択肢が限られ、移動手段が課題となるケースが多い
  • 行政動向: 広域連携による効率的なサービス提供が模索されている

地域特性に応じたサービス分析

大都市型市場の成長サービス

  1. 居宅訪問型児童発達支援: +18.7%

    • 共働き家庭や通所が困難な医療的ケア児へのニーズが急増
    • 専門性の高いスタッフによる個別支援の価値が高い評価
  2. 就労定着支援: +12.1%

    • 一般企業の多様な雇用環境に適応するための支援ニーズが高まる
    • 雇用先との緊密な連携が可能な都市部で特に成長
  3. 自立生活援助: +11.5%

    • 一人暮らしへの移行支援ニーズが高まる
    • 多様な住宅事情に対応した支援の専門性が求められる

地方型市場の成長サービス

  1. 共同生活援助: +11.2%

    • 親の高齢化に伴う将来への不安から需要が増加
    • 地域内での生活の場の確保が重要視される
  2. 短期入所: +8.4%

    • 介護者のレスパイトケアの重要性が認識される
    • 地域の高齢化に伴い、不可欠なサービスとして定着
  3. 就労継続支援B型: +8.2%

    • 地域内での働く場として、農福連携など地域資源を活かした取り組みが増加
    • 地域経済の一端を担う役割として期待される

地域格差の実態

人口あたり施設数の地域差

  • 最多: 鳥取県(197.3施設/人口10万人)
  • 最少: 埼玉県(92.1施設/人口10万人)

人口規模の小さい県ほど人口あたりの施設数が多い傾向があり、効率性と近接性のバランスが地域によって異なることが示されています。

サービス充足度の格差

  • 医療的ケア児支援格差: 都道府県間で最大9.4倍の差
  • 強度行動障害対応施設格差: 都道府県間で最大5.7倍の差

専門性が高いサービスほど地域格差が拡大する傾向があり、都道府県の政策方針や地域内の医療資源の有無が大きく影響しています。

今後の地域戦略

  1. 都市部: 専門性と差別化

    • 医療的ケア、発達障害、精神障害など、特定のニーズに特化した高度な専門性が競争優位性を生み出します。
    • 他の事業者や医療機関、教育機関との連携(ネットワーク化)が重要です。
    • 具体的戦略例:
      • 特定領域(例:発達障害、高次脳機能障害)に特化した専門クリニックとの連携モデル
      • ICTを活用した遠隔支援と対面支援を組み合わせたハイブリッドモデル
      • 企業の障害者雇用を総合的に支援する「ワンストップ支援」モデル
  2. 地方部: 包括的ケアとDX活用

    • 複数のサービスを一体的に提供する「多機能型事業所」や、地域包括ケアシステムの中核を担う役割が期待されます。
    • オンライン相談やICTを活用した業務効率化、遠隔支援(テレワーク支援)の導入が、人材不足を補い、サービスの質を維持・向上させる鍵となります。
    • 具体的戦略例:
      • 生活介護・就労支援・短期入所・相談支援を一体的に提供する多機能型拠点
      • 農業や地場産業と連携した「まちづくり型」就労支援モデル
      • 複数市町村をカバーする広域巡回型支援サービス
  3. 全域: 地域連携の強化

    • 自治体の障害福祉計画やニーズ調査を分析し、地域に不足しているサービスを戦略的に展開することが成功の要です。
    • 過疎地域においては、近隣の市町村と連携した広域的なサービス提供体制の構築も有効な選択肢となります。
    • 具体的戦略例:
      • 医療・介護・福祉の多職種連携プラットフォームの構築
      • 自治体や社会福祉協議会との官民連携モデル
      • 異業種(教育、医療、介護、住宅)との業務提携による総合支援体制

有望地域分析:2024年注目の5県

  1. 滋賀県

    • 特徴: 障害児支援の充実度が高く、県の政策支援も手厚い
    • 成長率: +8.7%(全国平均+6.3%)
    • 推奨サービス: 児童発達支援、放課後等デイサービス
  2. 山梨県

    • 特徴: 施設数の伸び率が全国トップで、今後の成長余地が大きい
    • 成長率: +14.5%(全国平均+6.3%)
    • 推奨サービス: 共同生活援助、就労継続支援
  3. 香川県

    • 特徴: 四国内で最も成長率が高く、サービス需給バランスに改善余地がある
    • 成長率: +8.9%(全国平均+6.3%)
    • 推奨サービス: 就労定着支援、自立生活援助
  4. 熊本県

    • 特徴: 医療・福祉連携の基盤が整い、包括的支援への取り組みが先進的
    • 成長率: +7.8%(全国平均+6.3%)
    • 推奨サービス: 医療型児童発達支援、重度訪問介護
  5. 岐阜県

    • 特徴: 農福連携の取り組みが盛んで、地域資源を活かした展開が期待できる
    • 成長率: +9.7%(全国平均+6.3%)
    • 推奨サービス: 就労継続支援B型(農福連携)、共同生活援助

まとめ

障害福祉サービス市場の地域構造は、大都市圏への集中と、地方部における地域インフラとしての役割という二つの側面を持っています。大阪府の突出した集積は、地域独自の市場環境や政策が事業所数に大きく影響することを示唆しています。

今後の事業展開においては、全国一律のモデルではなく、各地域の人口動態、地理的条件、既存のサービス提供体制、そして自治体の政策を深く理解し、地域ごとの特性に最適化された戦略を立てることが不可欠です。

特に、専門性の高いサービスの地域格差は解消途上にあり、そのギャップを埋める事業展開には大きな機会があると言えるでしょう。一方で、事業者間・地域間の連携を通じて、限られた資源を効率的に活用し、持続可能な支援体制を構築していく視点も重要です。


本分析は2024年3月時点のWAMデータに基づき、2023年9月との比較により地域別の市場動向を分析したものです。全ての数値は公開データを基に算出しており、一部推計を含みます。本記事が事業者の皆様の地域戦略立案に寄与することを願っています。

2024年03月の記事

障害福祉サービス市場概況分析(2024年3月版)

障害福祉サービス市場は前期比+6.3%で175,829施設に拡大し成長が加速。児童系サービスが牽引し、児童発達支援(+12.0%)と放課後等デイ(+9.6%)が高成長。株式会社(+8.7%)と合同会社(+17.4%)の参入が活発で市場構造が変化。多店舗展開事業者の割合が41.3%に拡大し、DX導入も進行中。発達障害(+11.4%)と精神障害(+6.2%)の利用者増加が顕著。

地域別市場分析(2024年3月版)

障害福祉サービス市場は大阪府(22,607施設)が突出し、東京都の2倍に達する異常集中を示す。成長率は山梨県(+14.5%)が最高。医療的ケア児支援は地域間で9.4倍の格差。都市部では専門性と差別化、地方部では多機能型と地域連携が鍵。滋賀県、山梨県、香川県、熊本県、岐阜県が今後の有望地域として注目される。

サービス別トレンド分析(2024年3月版)

障害福祉サービスは児童分野が著しく成長。特に居宅訪問型児童発達支援(+16.5%)と保育所等訪問支援(+15.0%)がトップ。児童発達支援、就労定着支援、放課後等デイサービスも高成長。「地域生活」と「就労」にフォーカスしたサービスシフトが進む一方、居住系サービスは高い入居率(96.5%)で需給逼迫。サービスの量から質への転換期。

事業者動向とビジネスモデル分析(2024年3月版)

障害福祉サービス市場では株式会社(34.7%)の躍進が続き、医療連携や専門特化など5つの成功モデルが台頭。小規模事業者が主流ながら、上位15%の事業者が市場の50%以上を占める二極化傾向が進行。成功の鍵は複数サービスの複合型展開、ICT活用によるDX、専門性とブランディングによる差別化。M&Aも活発化し業界再編が加速中。

事業所規模と定員数分析(2024年3月版)

障害福祉サービスは小規模施設(定員10名以下)が54.5%を占める構造。定員充足率の全体平均は93.8%で需要超過状態が続く。特に児童発達支援(97.6%)と共同生活援助(96.9%)は需給逼迫。サービス別に最適規模が異なり、小規模は支援の個別性、大規模は経営効率で優位。市場は「量的拡大」から「質的向上」フェーズへ移行中。

市場の成長機会と将来展望(2024年3月版)

障害福祉サービス市場の成長機会は「児童福祉のアドバンス領域」「精神障害者の地域生活支援」「総合的相談支援サービス」「高齢障害者向け共生型サービス」「テクノロジー活用支援」の5領域。特に専門特化型の療育と医療連携型支援に需要集中。市場は量的拡大から専門性と質が問われる段階へ移行し、複合化・人材育成・M&A戦略が必須に。