障害福祉サービスガイド

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サービス別トレンド分析(2024年3月版)

概要

本稿では、29種類に及ぶ障害福祉サービスを個別に分析し、特に成長が著しいサービス、安定期にあるサービス、そして専門性が高いニッチなサービスを特定します。2023年9月データとの比較を通じて、市場の最新トレンドを明らかにします。

高成長サービス TOP5

この半年間で特に施設数の伸び率が高かったサービスは以下の通りです。

  1. 居宅訪問型児童発達支援: +16.5%(236 → 275施設)
  2. 保育所等訪問支援: +15.0%(2,195 → 2,524施設)
  3. 児童発達支援: +12.0%(11,391 → 12,754施設)
  4. 就労定着支援: +9.8%(1,506 → 1,653施設)
  5. 放課後等デイサービス: +9.6%(18,063 → 19,794施設)

分析と考察

  • 児童福祉分野の圧倒的な成長: TOP5のうち4つが児童関連サービスであり、市場の成長を強力に牽引しています。特に、専門スタッフが家庭や保育所を訪問するアウトリーチ型の支援(居宅訪問型、保育所等訪問支援)が急増しており、より個別性の高い支援へのニーズがうかがえます。
  • 就労支援の定着フェーズへの移行: 就労継続支援だけでなく、就労後の定着をサポートする「就労定着支援」が9.8%という高い成長を見せており、就労支援が「出口戦略」まで含めたトータルサポートへと進化していることを示しています。

高成長サービスの特徴と背景

1. 居宅訪問型児童発達支援

  • 成長の背景:

    • 医療的ケア児等、通所が困難な児童への支援ニーズの顕在化
    • コロナ禍でのニーズ拡大後も継続的な需要
    • 児童発達支援センターの機能拡充による専門的訪問支援の普及
  • サービス特性:

    • 平均利用時間: 60分/回
    • 主な対象: 重症心身障害児、医療的ケア児、強度行動障害児
    • 主な提供者: 児童発達支援センター、医療機関併設事業所

2. 保育所等訪問支援

  • 成長の背景:

    • インクルーシブ教育・保育への社会的関心の高まり
    • 保育所・幼稚園・学校での専門的支援の必要性認識
    • 地域生活支援の強化に関する政策的推進
  • サービス特性:

    • 平均訪問頻度: 月1〜2回
    • 訪問先構成比: 保育所(42%)、幼稚園(28%)、小学校(21%)、その他(9%)
    • 主な支援内容: 集団適応支援、環境調整、スタッフへの助言

主要サービスの動向

訪問系サービス

  • 居宅介護: +4.3%(21,415 → 22,345施設)
  • 重度訪問介護: +3.1%(18,573 → 19,145施設)

安定的な需要に支えられ、堅調に推移しています。特に居宅介護は前回(+2.1%)を上回る成長を見せており、在宅生活を支える基幹サービスとしての重要性が再認識されています。

訪問系サービスの最新動向

  • 重度障害者のニーズ変化: 単なる身体介護だけでなく、社会参加を支援する「通院等介助」「通院等乗降介助」の利用が増加しています。特に精神障害者の外出支援ニーズが高まっています。

  • サービス時間の変化:

    • 居宅介護: 1回あたり平均利用時間 60分→65分(+8.3%)
    • 重度訪問介護: 1人あたり月間平均利用時間 140時間→147時間(+5.0%)
  • 人材確保の課題:

    • 訪問系サービス従事者の平均年齢: 47.3歳(全業種平均より+3.8歳)
    • 従事者の定着率: 年間離職率 25.3%(障害福祉サービス全体平均 18.4%)
    • 人材不足による利用制限が生じている事業所: 32.7%

通所・日中活動系サービス

  • 生活介護: +4.4%(11,399 → 11,895施設)
  • 就労継続支援B型: +7.4%(15,314 → 16,441施設)
  • 就労継続支援A型: +7.0%(4,192 → 4,484施設)

就労継続支援B型は1,127施設という大幅な増加数を見せ、A型も高い成長率を維持しています。障害者の就労意欲の高まりと、それを支える事業所の拡大が続いています。

就労系サービスの質的変化

  • B型事業所の工賃動向:

    • 平均工賃: 月額16,118円(前年比+3.4%)
    • 工賃上位25%の事業所平均: 月額22,543円
    • 工賃向上に成功している事業所の特徴: 企業との連携、高付加価値製品の開発、販路の多様化
  • A型事業所の賃金・労働時間:

    • 平均賃金: 月額79,433円(前年比+1.1%)
    • 平均労働時間: 月間83時間(前年比-2時間)
    • 最低賃金の地域差による格差: 最大1.2倍
  • 事業内容の多様化:

    • IT・デジタル分野への進出事業所: +31.5%増加
    • 農福連携に取り組む事業所: +18.7%増加
    • 飲食サービス(カフェ等)運営事業所: +14.2%増加

居住・入所系サービス

  • 共同生活援助(グループホーム): +9.3%(11,879 → 12,987施設)
  • 施設入所支援: +0.9%(2,513 → 2,535施設)

共同生活援助が1,108施設増と急増しており、地域生活への移行(シフト)が加速していることを明確に示しています。一方で、施設入所支援は微増にとどまり、大規模施設から地域密着型の住居への流れが鮮明になっています。

共同生活援助の変化と動向

  • 入居者の障害種別変化:

    • 知的障害: 65.3%(-2.1ポイント)
    • 精神障害: 24.7%(+1.5ポイント)
    • 身体障害: 8.9%(+0.3ポイント)
    • その他: 1.1%(+0.3ポイント)

    精神障害者の地域移行が進んでいることが示唆されています。

  • 支援区分による分析:

    • 重度(区分5-6): 17.3%(+1.2ポイント)
    • 中度(区分3-4): 43.7%(-0.5ポイント)
    • 軽度(区分1-2、区分なし): 39.0%(-0.7ポイント)
  • 新しい住まい方の広がり:

    • サテライト型住居: 全体の11.3%(+3.2ポイント)
    • 日中サービス支援型: 全体の15.7%(+2.8ポイント)
    • 自立支援ホーム(非制度のシェアハウス等): 推計約3,000箇所

ニッチ・専門サービス

  • 重度障害者等包括支援: +5.6%(18 → 19施設)
  • 医療型児童発達支援: +2.2%(90 → 92施設)
  • 医療型障害児入所施設: +6.5%(201 → 214施設)

これらのサービスは施設数こそ少ないものの、医療的ケアを必要とする重度の障害児・者に対応するための重要な役割を担っています。特に医療型障害児入所施設の6.5%という伸びは、専門性の高い支援への根強い需要を示しています。

医療的ケアニーズへの対応

  • 医療的ケア児等の推計数: 約20,000人(+8.1%)

  • 支援体制の地域差:

    • 医療的ケア児支援センター設置率: 74.5%(都道府県・政令市)
    • 医療的ケア児等コーディネーター配置数: 平均6.7人/都道府県
    • 医療的ケア対応可能な障害福祉サービス事業所数: 3,968施設(全体の2.3%)
  • 課題と対応:

    • 看護職の確保難(全国平均充足率: 69.8%)
    • 短期入所(医療型)の不足(前年比+4.3%増も需要に対し供給不足)
    • 多職種連携による支援体制構築の重要性

新たなサービスモデルの出現

1. 多機能型・共生型サービス

  • 多機能型事業所: 前年比+11.2%増

    • 児童発達支援+放課後等デイサービス: 3,207事業所
    • 生活介護+就労継続支援B型: 1,843事業所
    • その他の組み合わせ: 2,954事業所
  • 共生型サービス: 前年比+24.3%増

    • 介護保険サービスとの一体的運営によるシナジー効果
    • 主な組み合わせ: 通所介護(デイサービス)+生活介護

2. ICT活用サービス

  • 遠隔支援モデル:

    • オンライン相談支援実施事業所: 推計約11,000事業所
    • ICT活用就労支援(テレワーク支援): 推計約750事業所
    • VR・AR技術活用リハビリ・SST: 実証段階
  • DX化による業務効率化:

    • ICT記録システム導入率: 62.3%(+7.1ポイント)
    • タブレット等モバイル機器活用率: 41.7%(+9.3ポイント)
    • AIを活用した支援計画作成支援: 開発・試験段階

市場成熟度による4分類

サービス種別を市場の成熟度(伸び率)とサービス普及度(施設数)で分類すると、以下の4タイプに分けることができます。

1. 成長期サービス(高成長・普及途上)

  • 居宅訪問型児童発達支援: +16.5%
  • 保育所等訪問支援: +15.0%
  • 児童発達支援: +12.0%
  • 就労定着支援: +9.8%
  • 自立生活援助: +8.5%

特徴: 社会的ニーズが高まり急速に拡大中。参入障壁は比較的低いが、専門性の確立が課題。

戦略的示唆: 早期参入と専門性構築が重要。地域内での先行者利益獲得を目指す。

2. 拡大期サービス(中成長・普及進行中)

  • 放課後等デイサービス: +9.6%
  • 共同生活援助: +9.3%
  • 就労継続支援B型: +7.4%
  • 就労継続支援A型: +7.0%

特徴: 需要が確立され、事業者参入が活発。競争が激化し始めている。

戦略的示唆: サービスの質による差別化と効率的な運営体制の確立が成功の鍵。

3. 安定期サービス(低成長・高普及)

  • 居宅介護: +4.3%
  • 重度訪問介護: +3.1%
  • 生活介護: +4.4%
  • 計画相談支援: +4.8%

特徴: 市場が成熟し、安定した需要がある。参入障壁は比較的高い。

戦略的示唆: 専門特化または規模の経済を活かした効率化が求められる。

4. 特化型サービス(様々な成長率・低普及)

  • 重度障害者等包括支援: +5.6%
  • 医療型児童発達支援: +2.2%
  • 医療型障害児入所施設: +6.5%
  • 療養介護: +0.7%

特徴: 高い専門性が求められ、施設数は限られている。ニーズに対して供給が不足。

戦略的示唆: 専門スキルの確保と自治体・医療機関との連携強化が必須。

まとめ

2024年3月時点のサービストレンドは、以下の3つの大きな潮流に集約されます。

  1. 児童福祉の爆発的拡大と専門分化: 全体的な施設数の増加に加え、訪問型支援など新たなサービス形態が急成長しています。
  2. 「地域生活」と「就労」へのシフト: 共同生活援助と各種就労支援サービスが著しく増加しており、障害者の社会参加と自立を後押しする流れが加速しています。
  3. サービスの成熟と安定化: 居宅介護や生活介護といった基幹サービスも、安定した需要を背景に堅調な成長を続けています。

事業者にとっては、これらのマクロトレンドを理解しつつ、自社の強みや地域特性に合わせて、どのサービス領域で価値を提供していくのかを戦略的に選択することが、これまで以上に重要になっています。

同時に、サービスの「量」だけでなく「質」が問われる時代へと移行しつつあることを認識し、専門性の向上と効率的な運営の両立を目指すことが、持続可能な事業展開の鍵となるでしょう。


本分析は2024年3月時点のWAMデータに基づき、2023年9月との比較によりサービス種別ごとの市場動向を分析したものです。全ての数値は公開データを基に算出しており、一部推計を含みます。本記事が事業者の皆様のサービス展開や戦略立案に寄与することを願っています。

2024年03月の記事

障害福祉サービス市場概況分析(2024年3月版)

障害福祉サービス市場は前期比+6.3%で175,829施設に拡大し成長が加速。児童系サービスが牽引し、児童発達支援(+12.0%)と放課後等デイ(+9.6%)が高成長。株式会社(+8.7%)と合同会社(+17.4%)の参入が活発で市場構造が変化。多店舗展開事業者の割合が41.3%に拡大し、DX導入も進行中。発達障害(+11.4%)と精神障害(+6.2%)の利用者増加が顕著。

地域別市場分析(2024年3月版)

障害福祉サービス市場は大阪府(22,607施設)が突出し、東京都の2倍に達する異常集中を示す。成長率は山梨県(+14.5%)が最高。医療的ケア児支援は地域間で9.4倍の格差。都市部では専門性と差別化、地方部では多機能型と地域連携が鍵。滋賀県、山梨県、香川県、熊本県、岐阜県が今後の有望地域として注目される。

サービス別トレンド分析(2024年3月版)

障害福祉サービスは児童分野が著しく成長。特に居宅訪問型児童発達支援(+16.5%)と保育所等訪問支援(+15.0%)がトップ。児童発達支援、就労定着支援、放課後等デイサービスも高成長。「地域生活」と「就労」にフォーカスしたサービスシフトが進む一方、居住系サービスは高い入居率(96.5%)で需給逼迫。サービスの量から質への転換期。

事業者動向とビジネスモデル分析(2024年3月版)

障害福祉サービス市場では株式会社(34.7%)の躍進が続き、医療連携や専門特化など5つの成功モデルが台頭。小規模事業者が主流ながら、上位15%の事業者が市場の50%以上を占める二極化傾向が進行。成功の鍵は複数サービスの複合型展開、ICT活用によるDX、専門性とブランディングによる差別化。M&Aも活発化し業界再編が加速中。

事業所規模と定員数分析(2024年3月版)

障害福祉サービスは小規模施設(定員10名以下)が54.5%を占める構造。定員充足率の全体平均は93.8%で需要超過状態が続く。特に児童発達支援(97.6%)と共同生活援助(96.9%)は需給逼迫。サービス別に最適規模が異なり、小規模は支援の個別性、大規模は経営効率で優位。市場は「量的拡大」から「質的向上」フェーズへ移行中。

市場の成長機会と将来展望(2024年3月版)

障害福祉サービス市場の成長機会は「児童福祉のアドバンス領域」「精神障害者の地域生活支援」「総合的相談支援サービス」「高齢障害者向け共生型サービス」「テクノロジー活用支援」の5領域。特に専門特化型の療育と医療連携型支援に需要集中。市場は量的拡大から専門性と質が問われる段階へ移行し、複合化・人材育成・M&A戦略が必須に。