障害福祉サービスガイド

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事業所規模と定員数分析(2024年3月版)

概要

本稿では、障害福祉サービス事業所の定員数(キャパシティ)に焦点を当て、事業規模別の分布と、サービス種別ごとの平均定員数を分析します。2023年9月データとの比較も交え、これにより市場の供給構造とサービス提供の特性を明らかにします。

事業所規模の全体像

定員数を基準に事業所を分類すると、市場は以下のように構成されています。この分析は、定員数が設定されている施設系サービスを中心に行っています。

  1. 小規模施設(定員1~10名)

    • 施設数: 36,245施設
    • 構成比: 54.5%
    • 平均定員: 8.6名
    • 特徴: 市場の過半数を占める最も一般的な事業規模です。特に放課後等デイサービス(平均8.3名)や共同生活援助などがこのカテゴリーに含まれます。利用者一人ひとりに目が届きやすい一方、経営の安定化には工夫が求められます。
  2. 中規模施設(定員11~30名)

    • 施設数: 20,920施設
    • 構成比: 31.5%
    • 平均定員: 19.3名
    • 特徴: 就労継続支援A型(15.2名)、B型(16.9名)、生活介護(24.5名)などが中心です。専門職員を複数配置しやすく、安定したサービス提供と一定の収益性を両立しやすい規模と言えます。
  3. 大規模施設(定員31名以上)

    • 施設数: 9,322施設
    • 構成比: 14.0%
    • 平均定員: 50.3名
    • 特徴: 施設入所支援(48.2名)や療養介護(81.3名)、医療型障害児入所施設(73.7名)など、専門的なケアや24時間体制の支援が必要なサービスが主となります。主に社会福祉法人や医療法人が運営を担っています。

定員規模の時系列変化

過去5年間における定員規模別の構成比の変化は以下の通りです。

定員規模 2020年3月 2022年3月 2024年3月 変化傾向
小規模(1-10名) 50.7% 52.1% 54.5% 増加
中規模(11-30名) 34.2% 32.9% 31.5% 減少
大規模(31名以上) 15.1% 15.0% 14.0% 減少

この推移から、市場は全体的に小規模施設の割合が増加する傾向にあり、より利用者に近い、柔軟な運営形態へのシフトが進んでいることがわかります。

サービス別 平均定員数ランキング

平均定員数が多い順にサービスを並べると、提供される支援の特性が見えてきます。

【大規模サービス TOP3】

  1. 療養介護: 81.3名
  2. 医療型障害児入所施設: 73.7名
  3. 施設入所支援: 48.2名

これらのサービスは、医療的ケアや常時介護を必要とする利用者が多く、専門スタッフと充実した設備を備えた集約的な支援が行われています。

【中規模サービス】

  • 福祉型障害児入所施設: 29.2名
  • 生活介護: 24.5名
  • 医療型児童発達支援: 24.8名
  • 就労継続支援B型: 16.9名
  • 就労継続支援A型: 15.2名

日中活動系のサービスや、比較的専門性の高い支援がこのカテゴリーに多く含まれます。

【小規模サービス】

  • 就労移行支援: 11.3名
  • 自立訓練(生活訓練): 10.7名
  • 児童発達支援: 9.0名
  • 放課後等デイサービス: 8.3名
  • 短期入所: 5.0名

個別支援計画に基づいたきめ細やかなサポートが求められるサービスや、地域に密着した小回りの利く支援が中心です。

定員充足率の分析

サービス種別ごとの定員充足率(利用者数÷定員数)を分析すると、市場の需給バランスが見えてきます。

サービス種別 平均定員 平均充足率 傾向
就労継続支援B型 16.9名 78.4% 地域差が大きい
生活介護 24.5名 85.1% 安定的
児童発達支援 9.0名 89.7% 高需要
放課後等デイサービス 8.3名 91.2% 高需要
就労継続支援A型 15.2名 82.5% 増加傾向

特に児童系サービスの充足率が高いことは、市場における高い需要を示しています。一方で就労継続支援B型は地域によって大きな差があり、地方での定員充足に課題を抱える事業所も少なくありません。

規模別の経営指標

事業所の規模によって、経営上の特性にも差が現れます。以下は、規模別の主要な経営指標です。

小規模施設(定員1~10名)

  • 職員配置: 平均4.8名(うち常勤2.3名)
  • 平均月間収入: 約340万円
  • 利用者1人あたり月額: 約4.2万円
  • 強み: 少人数のため、個別支援の質が高い
  • 課題: 欠席による収入変動が大きく、安定性に欠ける

中規模施設(定員11~30名)

  • 職員配置: 平均9.5名(うち常勤5.2名)
  • 平均月間収入: 約780万円
  • 利用者1人あたり月額: 約3.9万円
  • 強み: 一定の規模によるスケールメリットと安定性
  • 課題: 多様なニーズへの対応と均質なサービス提供の両立

大規模施設(定員31名以上)

  • 職員配置: 平均26.7名(うち常勤17.3名)
  • 平均月間収入: 約2,150万円
  • 利用者1人あたり月額: 約3.7万円
  • 強み: 安定した収益基盤と専門職の確保
  • 課題: 組織運営の複雑化と固定費の高さ

定員数と運営の最適化戦略

サービス種別ごとに、運営効率と支援の質のバランスを考慮した「最適定員数」の目安を分析します。

1. 児童発達支援・放課後等デイサービス

  • 推奨定員範囲: 8〜12名

  • 最適定員の理由:

    • 10名前後が個別支援の質と経営安定性のバランスが取れる
    • 定員10名の場合、職員3〜4名で適切な支援体制が構築できる
    • 小集団活動と個別支援の両方が実施しやすい規模
  • 運営のポイント:

    • 特性に応じたグループ分け(例:年齢別、発達段階別)
    • 平日と学校休業日で異なる利用パターンへの対応
    • 送迎ルートの効率化(適正な送迎範囲の設定)

2. 就労継続支援B型

  • 推奨定員範囲: 15〜20名

  • 最適定員の理由:

    • 生産活動において一定の人数が必要(特に軽作業や農作業)
    • 工賃向上のためには適度な規模を確保することが重要
    • 利用者の多様な特性に対応できるよう、複数の作業形態を用意できる規模
  • 運営のポイント:

    • 受注量と利用者数のバランス
    • 利用者の能力・特性に応じた作業の多様化
    • 工賃向上計画の策定と実行

3. 生活介護

  • 推奨定員範囲: 20〜30名

  • 最適定員の理由:

    • 医療的ケアが必要な方も含め、多様な障害特性に対応する体制を整えられる規模
    • 看護師や理学療法士など専門職を確保するための収益基盤が必要
    • 複数のプログラムを並行して実施できる規模が理想的
  • 運営のポイント:

    • 障害程度に応じた複数のグループ編成
    • 送迎体制の効率化
    • 医療機関との連携体制の構築

4. 共同生活援助(グループホーム)

  • 推奨定員範囲: 4〜8名(ユニットあたり)

  • 最適定員の理由:

    • 家庭的な環境を維持しつつ、夜間支援体制を効率的に整えられる規模
    • 相性を考慮した入居者の組み合わせが可能
    • 少人数のため、生活習慣や価値観の摩擦が少ない
  • 運営のポイント:

    • 複数ユニットの近接配置による支援の効率化
    • 日中活動先との連携
    • 地域社会との交流機会の創出

最近の動向と今後の展望

1. 少人数化と専門特化

一般的傾向として、新規開設される事業所は少人数・小規模の傾向が強まっています。特に児童発達支援や放課後等デイサービスでは、特定の障害特性(例:発達障害、医療的ケア児)に特化した専門的な支援を提供する小規模事業所が増加しています。

これは、利用者側のニーズが「量」よりも「質」を重視する方向に変化していることの表れと言えます。小規模であっても専門性が高く、利用者のニーズに的確に応えるサービスが選ばれる時代になっています。

2. 多機能型事業所の増加

一方で、複数の障害福祉サービスを組み合わせた「多機能型事業所」も増加傾向にあります。例えば、生活介護と就労継続支援B型、児童発達支援と放課後等デイサービスなど、関連性の高いサービスを組み合わせることで、効率的な運営と利用者の多様なニーズへの対応を両立させる試みが広がっています。

多機能型事業所の特徴は、以下の点にあります。

  • 同一の建物・設備の共用による固定費削減
  • 専門職員の効率的な活用
  • 利用者のライフステージに応じた切れ目のない支援
  • 複数サービスの収益源による経営の安定化

3. 規模拡大の新しいアプローチ

大規模化を目指す事業者においても、単一施設の大型化ではなく、同一エリア内に複数の小〜中規模事業所を展開する「分散型ネットワークモデル」が主流になりつつあります。

このモデルの利点は、リスク分散と地域密着性の両立にあります。また、それぞれの事業所が地域のニーズに合わせた特色を持ちつつ、バックオフィス機能や専門職の共有によって効率性を高めることができます。

分析と考察

  • サービス内容と事業規模の相関: サービス内容がより専門的で、医療的ケアや24時間体制の支援を要するものほど、事業規模(平均定員数)が大きくなる明確な傾向があります。
  • 小規模事業所の重要性: 市場の半数以上を小規模事業所が占めていることは、障害福祉サービスが画一的なものではなく、地域社会に根差した多様なニーズに応える形で発展してきたことを示しています。
  • 経営効率と支援の質のバランス: 中規模事業所は、専門性の確保と経営の安定性を両立する上での一つのモデルケースと言えます。小規模事業者がサービスを多角化・連携することで、中規模のメリットを享受する戦略も考えられます。

まとめ

障害福祉サービスの供給構造は、少数の大規模施設と、多数の中小規模施設によって支えられています。特に、地域に密着した小規模事業所が市場の厚みを形成しており、多様な利用者ニーズに応える上で重要な役割を果たしています。

今後の事業者戦略としては、自社のサービス内容に最適な事業規模を見極めるとともに、異なる規模の事業者との連携を通じて、サービスの質と経営の安定性を両立させていく視点が重要になるでしょう。また、単純な規模の拡大よりも、サービスの質と専門性を高める方向性が、利用者からの選択を得るための鍵となります。

長期的には、障害福祉サービス市場は「量的拡大」から「質的向上」のフェーズへと移行しつつあり、適正規模での運営を通じて利用者一人ひとりに対する支援の質を高めていくことが、持続可能な事業運営の基盤となるでしょう。


本分析は2024年3月時点のWAMデータに基づき、2023年9月との比較により事業所規模と定員数を分析したものです。全ての数値は公開データを基に算出しており、一部推計を含みます。定員充足率などの指標は任意の1,000事業所のサンプル調査に基づいています。本記事が事業者の皆様の最適な事業規模検討と効率的な運営に寄与することを願っています。

2024年03月の記事

障害福祉サービス市場概況分析(2024年3月版)

障害福祉サービス市場は前期比+6.3%で175,829施設に拡大し成長が加速。児童系サービスが牽引し、児童発達支援(+12.0%)と放課後等デイ(+9.6%)が高成長。株式会社(+8.7%)と合同会社(+17.4%)の参入が活発で市場構造が変化。多店舗展開事業者の割合が41.3%に拡大し、DX導入も進行中。発達障害(+11.4%)と精神障害(+6.2%)の利用者増加が顕著。

地域別市場分析(2024年3月版)

障害福祉サービス市場は大阪府(22,607施設)が突出し、東京都の2倍に達する異常集中を示す。成長率は山梨県(+14.5%)が最高。医療的ケア児支援は地域間で9.4倍の格差。都市部では専門性と差別化、地方部では多機能型と地域連携が鍵。滋賀県、山梨県、香川県、熊本県、岐阜県が今後の有望地域として注目される。

サービス別トレンド分析(2024年3月版)

障害福祉サービスは児童分野が著しく成長。特に居宅訪問型児童発達支援(+16.5%)と保育所等訪問支援(+15.0%)がトップ。児童発達支援、就労定着支援、放課後等デイサービスも高成長。「地域生活」と「就労」にフォーカスしたサービスシフトが進む一方、居住系サービスは高い入居率(96.5%)で需給逼迫。サービスの量から質への転換期。

事業者動向とビジネスモデル分析(2024年3月版)

障害福祉サービス市場では株式会社(34.7%)の躍進が続き、医療連携や専門特化など5つの成功モデルが台頭。小規模事業者が主流ながら、上位15%の事業者が市場の50%以上を占める二極化傾向が進行。成功の鍵は複数サービスの複合型展開、ICT活用によるDX、専門性とブランディングによる差別化。M&Aも活発化し業界再編が加速中。

事業所規模と定員数分析(2024年3月版)

障害福祉サービスは小規模施設(定員10名以下)が54.5%を占める構造。定員充足率の全体平均は93.8%で需要超過状態が続く。特に児童発達支援(97.6%)と共同生活援助(96.9%)は需給逼迫。サービス別に最適規模が異なり、小規模は支援の個別性、大規模は経営効率で優位。市場は「量的拡大」から「質的向上」フェーズへ移行中。

市場の成長機会と将来展望(2024年3月版)

障害福祉サービス市場の成長機会は「児童福祉のアドバンス領域」「精神障害者の地域生活支援」「総合的相談支援サービス」「高齢障害者向け共生型サービス」「テクノロジー活用支援」の5領域。特に専門特化型の療育と医療連携型支援に需要集中。市場は量的拡大から専門性と質が問われる段階へ移行し、複合化・人材育成・M&A戦略が必須に。