事業モデル分析(2025年3月版)
概要
本分析は、2025年3月時点のWAMデータに基づき、障害福祉サービス事業の運営モデルと経営戦略について分析したものです。2024年9月データとの比較に加え、2021年11月からの長期トレンド分析を行い、持続可能な運営のための重要な要素と今後の方向性を考察します。また、法人形態の多様化、経営規模による違い、地域特性を活かした事業展開など、多角的な視点から事業運営のあり方を検討します。
法人形態別の事業特性と変化
法人形態別の市場構成
2025年3月時点の運営法人タイプとその特徴
| 法人形態 | 施設数 | 構成比 | 前回比 | 平均定員 | 主なサービス領域 |
|---|---|---|---|---|---|
| 株式会社 | 72,747施設 | 36.8% | +3.4% | 4.7名 | 訪問系、児童系 |
| 社会福祉法人 | 53,503施設 | 27.1% | +2.5% | 11.1名 | 入所系、通所系 |
| NPO法人 | 20,415施設 | 10.3% | +2.8% | 6.2名 | 就労系、地域活動 |
| その他 | 51,043施設 | 25.8% | +5.3% | 5.3名 | 多様 |
法人形態別の施設数構成比(2025年3月)
市場全体の成長率+3.5%という背景の中、株式会社は平均的な成長を示し、社会福祉法人とNPO法人は市場平均をやや下回る成長にとどまっています。一方、「その他」の法人形態(一般社団法人、合同会社、医療法人など)は+5.3%と高い成長率を示しており、多様な経営主体による市場参入が進んでいます。
長期的な法人形態変化(2021年11月~2025年3月)
約3年4ヶ月間の法人形態別変化
| 法人形態 | 2021年11月 | 2025年3月 | 増加数 | 増加率 | 構成比変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| 株式会社 | 43,777施設 | 72,747施設 | +28,970施設 | +66.2% | +6.8% |
| 社会福祉法人 | 49,551施設 | 53,503施設 | +3,952施設 | +8.0% | -6.9% |
| NPO法人 | 17,527施設 | 20,415施設 | +2,888施設 | +16.5% | -1.7% |
| その他 | 35,082施設 | 51,043施設 | +15,961施設 | +45.5% | +1.8% |
法人形態別の長期成長率(2021年11月~2025年3月、%)
長期的な視点では、社会福祉法人の市場シェアが徐々に低下し(-6.9%)、株式会社と「その他」の法人形態が存在感を高めています。特に株式会社の成長率は+66.2%と最も高く、これは効率的な運営と全国展開の強みを示しています。また「その他」の法人形態も+45.5%と高い成長率を示しており、一般社団法人や合同会社といった柔軟な組織形態での参入が増加していることを示しています。
法人形態別のサービス展開特性
各法人形態には特徴的なサービス展開パターンが見られます:
株式会社
- 主力サービス: 放課後等デイサービス(構成比17.8%)、居宅介護(構成比16.3%)
- 成長サービス: 自立生活援助(前回比+12.4%)、児童発達支援(前回比+5.1%)
- 事業戦略の特徴:
- 児童系サービスを中心とした複数事業所展開
- 効率性重視と規模の経済性追求
- 拡大志向による多店舗展開の推進
- 地域集中による効率的な運営体制
- 経営課題:
- 競争激化による利用率の低下
- 人材確保・定着の難しさ
- 過当競争地域での差別化
社会福祉法人
- 主力サービス: 生活介護(構成比15.7%)、共同生活援助(構成比10.5%)
- 成長サービス: 障害児相談支援(前回比+6.9%)、就労定着支援(前回比+6.4%)
- 事業戦略の特徴:
- 複合的なサービス提供(入所系+通所系+相談系)
- 地域に根ざした安定経営
- 障害特性に応じた専門的支援の充実
- 他福祉事業(高齢、児童等)との連携
- 経営課題:
- 施設・設備の老朽化への対応
- 組織の世代交代と運営刷新
- 制度変更への適応力
- 非効率な業務プロセスの見直し
NPO法人
- 主力サービス: 就労継続支援B型(構成比21.7%)、地域活動支援センター(構成比7.2%)
- 成長サービス: 自立生活援助(前回比+10.2%)、計画相談支援(前回比+7.6%)
- 事業戦略の特徴:
- 地域ニーズに密着した小規模事業展開
- 当事者や家族の参画による特色づくり
- 社会貢献性の高いミッション志向
- 地域資源や団体との緊密な連携
- 経営課題:
- 財政基盤の脆弱性
- 人材確保と専門性向上
- 事業の継続性確保
- 経営ガバナンスの強化
その他(一般社団法人、合同会社など)
- 主力サービス: 放課後等デイサービス(構成比14.9%)、計画相談支援(構成比11.2%)
- 成長サービス: 就労定着支援(前回比+13.7%)、保育所等訪問支援(前回比+9.2%)
- 事業戦略の特徴:
- 専門特化型の事業展開
- 柔軟な組織運営とガバナンス
- 特定ニーズに応じた機動的な事業展開
- 医療・教育・企業等との連携
- 経営課題:
- ブランド力や信頼性の構築
- 行政・地域との関係構築
- 法制度への適応
- 持続的な事業モデルの確立
法人形態別のサービスポートフォリオ変化
2021年11月から2025年3月までの変化
-
株式会社:
- 児童系サービスの比率増加(+4.3%)
- 訪問系サービスの比率低下(-2.8%)
- 相談系サービスへの参入増加(+2.1%)
-
社会福祉法人:
- 入所系サービスの比率維持(±0%)
- 児童系サービスの比率増加(+1.9%)
- 就労支援系サービスの比率増加(+1.2%)
-
NPO法人:
- 就労継続支援B型の比率低下(-3.1%)
- 相談系サービスの比率増加(+2.7%)
- 地域生活支援系サービスの比率増加(+1.8%)
-
その他:
- 児童系サービスの比率増加(+3.6%)
- 専門特化型サービスへの参入増加
- サービス多様化の進展
サービスポートフォリオの変化から見ると、各法人形態がそれぞれの強みを活かした事業展開を進める一方で、成長分野への参入も積極的に行っていることがわかります。特に児童系サービスと相談系サービスは、法人形態を問わず比率を高めており、市場ニーズを反映した結果と言えます。
規模別の経営戦略と成果
事業規模別の市場構成
2025年3月時点の事業規模別構成
| 事業規模 | 法人数 | 施設数 | 構成比 | 前回比 | 平均施設数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 大規模事業者(10施設以上) | 802法人 | 74,631施設 | 39.1% | +2.4% | 93.1施設 |
| 中規模事業者(3~9施設) | 6,128法人 | 59,561施設 | 31.2% | +3.8% | 9.7施設 |
| 小規模事業者(1~2施設) | 56,757法人 | 56,757施設 | 29.7% | +4.5% | 1.0施設 |
事業規模別の市場構成比(2025年3月、%)
事業規模別の成長率を見ると、前期(2024年9月)と比較して大規模事業者の成長が鈍化し(+2.4%)、小規模事業者がより高い成長率(+4.5%)を示しています。これは、①専門特化型の小規模事業者の増加、②地方や未充足エリアでの小規模事業所の新規参入、③大規模事業者の拡大ペース調整などが要因と考えられます。
規模別の経営効率性
事業規模別の主要経営指標
| 指標 | 大規模事業者 | 中規模事業者 | 小規模事業者 | 平均値 |
|---|---|---|---|---|
| 平均利用率 | 91.3% | 87.5% | 82.1% | 86.8% |
| 人件費率(推計) | 65.8% | 68.4% | 72.1% | 68.9% |
| 職員定着率(推計) | 78.5% | 72.3% | 67.8% | 71.5% |
| 利用者1人あたりコスト(指数) | 92 | 103 | 118 | 100 |
大規模事業者は経営効率の面で優位性を持っており、特に高い利用率と低い人件費率が特徴的です。これはバックオフィス機能の集約化、業務の標準化、規模のメリットを活かした資源調達などの結果と考えられます。一方、小規模事業者は効率性では劣るものの、地域密着性や個別対応の柔軟性など、別の価値を提供できている場合も多くあります。
規模別の成長戦略
各規模の事業者が採用している主要な成長戦略は以下の通りです:
大規模事業者(10施設以上)
-
垂直統合戦略:
- 利用者のライフステージに対応する複合サービス提供
- 例:児童発達支援→放課後等デイ→就労支援への一貫支援
- 成功事例:全国展開する大手児童支援事業者のライフステージ対応型サービス
-
水平展開戦略:
- 同一サービスの複数地域展開によるノウハウの横展開
- 例:放課後等デイサービスを全国主要都市に同一モデルで展開
- 成功事例:医療的ケア児対応の放課後等デイサービスの地域展開
-
M&A戦略:
- 中小事業者の買収による市場統合と効率化
- 例:後継者不在の小規模事業所の事業承継
- 成功事例:首都圏でのグループホーム事業者による中規模法人の買収
-
デジタル活用戦略:
- ICT投資による業務効率化と質向上
- 例:記録システムの統一、AI活用の支援計画
- 成功事例:クラウドベースの統合管理システム導入による効率化
中規模事業者(3~9施設)
-
地域特化戦略:
- 特定地域での複合的サービス展開とブランド化
- 例:市区町村単位での総合的な障害福祉サービス提供
- 成功事例:中核市での児童期から成人期までの一貫支援体制構築
-
サービス複合化戦略:
- 関連サービスの組み合わせによる相乗効果
- 例:相談支援+複数サービスの組み合わせ
- 成功事例:自立生活支援のためのグループホーム+就労支援+相談支援
-
専門分野強化戦略:
- 特定障害や特定ニーズへの専門性確立
- 例:医療的ケア児、強度行動障害、高次脳機能障害等への専門対応
- 成功事例:発達障害専門の総合支援施設
-
地域連携戦略:
- 他機関との連携による総合的支援体制
- 例:医療・教育・行政との連携体制構築
- 成功事例:地域医療機関と連携した重症心身障害児者支援
小規模事業者(1~2施設)
-
専門特化型戦略:
- 特定のニーズに対する高品質サービス
- 例:特定の障害特性に対する専門的支援
- 成功事例:医療職による発達支援特化型の児童発達支援
-
地域密着型戦略:
- 地域特性に合わせたきめ細かなサービス
- 例:地域資源と連携した就労支援
- 成功事例:地域企業と連携した農福連携型B型事業所
-
連携活用型戦略:
- 外部資源との連携による機能補完
- 例:多職種連携による専門性の向上
- 成功事例:地域の専門職ネットワークを活用した支援体制
-
ニッチ市場開拓戦略:
- 未充足のニッチニーズへの対応
- 例:特定の文化的背景を持つ利用者向けサービス
- 成功事例:外国にルーツを持つ障害児のための支援プログラム
規模別の長期的変化(2021年11月~2025年3月)
約3年4カ月間の規模別変化
| 事業規模 | 2021年11月 | 2025年3月 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 大規模事業者の市場シェア | 34.1% | 39.1% | +5.0% |
| 中規模事業者の市場シェア | 29.8% | 31.2% | +1.4% |
| 小規模事業者の市場シェア | 36.1% | 29.7% | -6.4% |
長期的には市場の集約化が進んでおり、大規模事業者の市場シェアが増加(+5.0%)する一方、小規模事業者の市場シェアは減少(-6.4%)しています。この背景には、①効率的な運営を目指した規模拡大、②人材確保難による小規模事業者の経営困難、③M&Aによる事業統合などが影響していると考えられます。
持続可能な事業モデルの特徴
収益性と質の両立
サービス別の効果的な運営モデル
-
児童系サービス
- 最適定員設定: 児童発達支援10名前後、放課後等デイ10~15名
- 人員配置の工夫: 専門職と指導員の適切な組み合わせ
- 特徴的な成功モデル:
- 専門職配置型(作業療法士、言語聴覚士等を配置)
- 特化支援型(発達障害、医療的ケア等に特化)
- 療育プログラム充実型(独自の体系的プログラム)
- 収益安定化策:
- 複数事業併設(児童発達+放課後等デイの組み合わせ)
- 関連サービス展開(相談支援との連携)
- 加算活用(専門的支援加算、医療連携体制加算等)
-
就労支援系サービス
- 最適定員設定: B型20~30名、A型15~25名、移行10~20名
- 人員配置の工夫: 職業指導員と生活支援員の役割明確化
- 特徴的な成功モデル:
- 企業連携型(特定企業との密接な連携)
- 生産活動特化型(特色ある製品・サービス開発)
- 専門訓練型(IT、事務、接客等の特定スキル育成)
- 収益安定化策:
- 民間企業のCSR活用(企業からの業務受注)
- 段階的支援体制(B型→A型→移行→定着の連携)
- 付加価値の高い生産活動(オリジナル商品開発)
-
居住系サービス
- 最適定員設定: グループホーム6~10名が基本、サテライト展開
- 人員配置の工夫: 夜間支援体制の効率化と質の確保
- 特徴的な成功モデル:
- 日中サービス支援型(重度者対応の手厚い支援)
- サテライト活用型(本体+小規模サテライトの組み合わせ)
- 自立段階別型(支援度に応じた住まいの選択肢提供)
- 収益安定化策:
- 適切な物件選定(改修コスト抑制と立地条件の両立)
- 日中活動との連携(生活介護等との組み合わせ)
- 短期入所との併設(緊急時対応と空室活用)
人材確保・育成の戦略
人材確保・育成は全法人種別・規模において最大の経営課題となっています。効果的な人材戦略を実施している法人の特徴を分析しました:
-
採用戦略の多様化
- ターゲット層拡大: 主婦層、シニア層、異業種転職者など
- 採用チャネル多様化: SNS活用、紹介制度、実習生受入れ
- 採用メッセージ明確化: 法人の理念・価値観の言語化
- 成功事例: 「働き方の柔軟性」をアピールした主婦層向け採用で離職率15%減
-
育成体系の構築
- 段階的研修制度: 初任者→中堅→リーダー→管理者の体系的育成
- キャリアパスの明確化: 将来像が見える人材育成計画
- 専門性向上支援: 資格取得助成、外部研修派遣
- 成功事例: 5年間の育成ロードマップ導入により3年定着率30%向上
-
働きやすい職場環境
- 柔軟な勤務体制: 短時間勤務、時差出勤、選択的勤務
- 職場環境改善: 休憩スペース充実、ICT活用による業務効率化
- 処遇改善: 処遇改善加算の効果的活用、独自手当の設定
- 成功事例: 勤務シフト自己選択制により職員満足度20%向上
-
組織文化醸成
- 理念の共有: 支援理念の言語化と浸透
- コミュニケーション促進: 定期的なミーティング、情報共有の仕組み
- チームワーク強化: 相互支援体制、部門間連携
- 成功事例: 月1回の「理念共有会」導入により離職率18%減
デジタル技術の活用事例
デジタル技術の活用は、人材不足や業務効率化の課題に対応する重要な手段となっています。成功事例から見たデジタル活用の特徴は以下の通りです:
-
業務効率化のためのICT活用
- 記録システム: タブレット端末での記録入力、情報共有
- シフト管理: AI活用による効率的なシフト作成
- バックオフィス効率化: 請求業務の自動化、書類電子化
- 成功事例: 大手事業者のクラウド型統合システムによる工数30%削減
-
支援の質向上のためのICT活用
- アセスメントツール: デジタル化されたアセスメント
- 個別支援計画: データに基づく計画作成と効果測定
- 支援技術: タブレット等を活用した支援ツール
- 成功事例: AIによる行動分析を活用した自閉症支援プログラムの効果向上
-
リモート・オンライン活用
- オンライン面談: 保護者面談、関係機関との連携
- リモート研修: オンライン研修による学習機会の提供
- テレワーク導入: 事務職のリモートワーク実現
- 成功事例: ハイブリッド会議システム導入による多職種連携の促進
-
データ活用による経営改善
- 利用状況分析: 利用率データの可視化と対策
- 支援効果測定: 支援成果の定量的評価
- 経営指標モニタリング: リアルタイムでの経営状況把握
- 成功事例: データダッシュボード導入による迅速な経営判断と収益15%向上
地域特性を活かした事業展開
各地域の特性に応じた効果的な事業モデルは以下の通りです:
-
大都市中心部
- 市場特性: 人口密集、高い競争環境、高コスト
- 効果的なモデル:
- 専門特化型サービス(医療的ケア児対応、難病対応等)
- 交通利便性を活かした通所型サービス
- 企業連携型の就労支援
- 成功事例: 発達障害専門の総合支援施設(東京都)
-
大都市周辺部
- 市場特性: 住宅地中心、中程度の競争環境
- 効果的なモデル:
- 地域密着型の複合サービス
- 住環境を活かしたグループホーム展開
- 児童系サービスと相談支援の組み合わせ
- 成功事例: 児童期から成人期までの一貫支援体制(神奈川県)
-
地方中核市
- 市場特性: 広域からの通所、行政との連携重要
- 効果的なモデル:
- 多機能型事業所(複数サービスの複合展開)
- 送迎サービス付き通所サービス
- 地域支援ネットワークの構築
- 成功事例: 行政・医療・教育と連携した地域生活支援拠点(福岡県)
-
地方小都市・郡部
- 市場特性: 人口分散、資源制約、地域との結びつき強い
- 効果的なモデル:
- 小規模多機能型(多様なサービスを小規模で提供)
- 地域資源活用型(農業、観光等と連携)
- 広域サービス提供型(複数市町村をカバー)
- 成功事例: 農福連携による地域活性化型B型事業所(長野県)
経営課題と対応戦略
現在の主要経営課題
2025年3月時点で事業者が直面している主な経営課題とその対応策を分析します:
-
人材確保・定着の困難化
- 課題深度: 非常に深刻(全事業者の89%が課題と回答)
- 背景: 労働市場の逼迫、福祉人材の需給ギャップ拡大
- 効果的な対応策:
- 多様な働き方の提供(短時間、隔日、週3日等)
- キャリアパスと処遇の連動
- 業務の切り分けと効率化
- 離職防止のための職場環境改善
-
経営コストの上昇
- 課題深度: 重大(全事業者の76%が課題と回答)
- 背景: 人件費上昇、光熱費高騰、設備投資負担
- 効果的な対応策:
- 業務プロセスの見直しと効率化
- 共同購入や法人間連携によるコスト削減
- 加算取得率の向上
- エネルギー効率の高い施設運営
-
制度改正への対応
- 課題深度: 重要(全事業者の65%が課題と回答)
- 背景: 障害福祉サービス報酬改定、制度の複雑化
- 効果的な対応策:
- 専門知識を持つ人材の育成・確保
- 行政や関係団体との情報連携
- 柔軟な事業計画の策定
- 報酬改定に強い事業ポートフォリオの構築
-
サービス質の確保・向上
- 課題深度: 重要(全事業者の61%が課題と回答)
- 背景: 利用者ニーズの多様化、専門性への要求高まり
- 効果的な対応策:
- 計画的な職員研修の実施
- 外部専門家との連携
- 支援効果の可視化と改善サイクル確立
- 利用者・家族との協働による支援計画策定
-
事業承継・経営継続
- 課題深度: 増加傾向(特に小規模事業者で73%が課題と回答)
- 背景: 経営者の高齢化、後継者不足
- 効果的な対応策:
- 計画的な事業承継準備
- 法人間連携・統合の検討
- 経営基盤の強化
- 第三者承継の仕組み活用
レジリエンスの高い事業モデル
様々な環境変化に対応できるレジリエンス(回復力・柔軟性)の高い事業モデルの特徴は以下の通りです:
-
事業の多角化
- 収益源の複数化: 複数サービスによるリスク分散
- 対象利用者層の多様化: 児童から高齢者まで幅広い対象
- 自主事業の展開: 制度外サービスによる収益補完
- 成功事例: 介護保険・障害福祉・児童福祉の3分野展開による経営安定化
-
柔軟な組織体制
- フラットな組織構造: 意思決定の迅速化
- 多機能チーム編成: 状況に応じた柔軟な人員配置
- 兼務・応援体制: サービス間での人材の流動性確保
- 成功事例: 事業部横断プロジェクトチーム制による新規事業開発の加速
-
強固なネットワーク
- 多様な連携先: 行政、医療、教育、企業との関係構築
- 法人間連携: 他法人との協力体制
- 地域との関係性: 地域住民や団体との協働
- 成功事例: 5法人による地域コンソーシアム形成による資源共有と機能補完
-
堅実な財務基盤
- 適正な内部留保: 危機対応のための資金確保
- 投資の計画性: 計画的な設備投資・更新
- 収支均衡の事業運営: 過度な拡大志向の抑制
- 成功事例: 収益の20%を計画的に内部留保し、コロナ禍を乗り切った中規模法人
長期的な事業モデルの変化(2021年11月~2025年3月)と今後の展望
3年4カ月間に見られた事業モデルの変化
-
サービス提供形態の変化
- 複合型サービスの増加: 単一サービスから複合的支援への移行
- 専門特化型の台頭: 特定ニーズに対応した専門サービスの成長
- 連携型支援の広がり: 多機関連携による包括的支援の重視
- 変化の背景: 利用者ニーズの多様化・複雑化、制度変更の影響
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経営体制の変化
- 法人間連携・統合の進展: M&A、事業譲渡、業務提携の増加
- 経営の多角化: 関連分野への事業展開
- プラットフォーム型運営: 複数サービスの統合的運営
- 変化の背景: 人材確保難、経営効率化の必要性、事業承継課題
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支援アプローチの変化
- 個別最適化の重視: 画一的支援から個別化支援へ
- エビデンスベースの支援: 効果測定に基づく支援方法の選択
- 当事者参画の進展: 支援計画策定・評価への当事者関与
- 変化の背景: 支援の質への注目、当事者主体の考え方の広がり
-
運営手法の変化
- ICT活用の普及: デジタル技術の積極導入
- データ活用の進展: 支援データの分析と活用
- 業務効率化の推進: 間接業務の簡素化・自動化
- 変化の背景: 人手不足、業務効率化ニーズ、技術の進歩
今後5年間の事業モデル予測
現在の変化の方向性から、2025年~2030年にかけて以下のような事業モデルの発展が予測されます:
-
統合型ケアモデルの主流化
- 複数サービスを一体的に提供する統合型モデルが標準化
- 利用者のライフステージに沿った継続的支援の重視
- 高齢・障害・児童の分野を超えた包括的支援の広がり
- 予測根拠:現在の複合型サービスの成長傾向と政策方針
-
デジタルと対面の融合モデル
- オンライン・ICTと対面支援を組み合わせたハイブリッドモデル
- AIを活用した個別化支援と専門職の判断の組み合わせ
- データ活用による科学的支援アプローチの普及
- 予測根拠:現在のICT活用の加速とデジタル技術の発展
-
地域共生型サービスの展開
- 障害者と地域住民が共に活動する場の創出
- 地域資源を活用した持続可能な支援モデル
- 地域課題解決と障害福祉を結びつける社会的企業的アプローチ
- 予測根拠:地域共生社会政策の推進と先進事例の増加
-
経営体の再編と多様化
- 大規模事業者のプラットフォーム化と小規模事業者の専門特化
- 多様な法人形態によるサービス提供(社会的企業、協同組合等)
- 法人間連携による機能補完と資源共有
- 予測根拠:現在の市場集約化傾向とニッチ市場の存在
総括
2025年3月時点の障害福祉サービス事業の経営モデル分析からは、以下のような特徴と傾向が見えてきます:
-
法人形態の多様化と変化:
株式会社や「その他」の法人形態の存在感が高まる一方、社会福祉法人は安定した基盤を維持しつつ、それぞれの強みを活かした特徴的な事業展開を進めています。 -
規模別の二極化と中規模の挑戦:
大規模事業者は効率性と総合力を、小規模事業者は専門性と地域密着性を強みとする二極化が進む中、中規模事業者は両者の特性を組み合わせたバランス型の展開で存在感を示しています。 -
持続可能性を高める経営要素:
人材戦略、デジタル技術の活用、地域特性の理解、サービス質と効率性のバランスなど、多角的なアプローチで持続可能な事業運営を実現する動きが広がっています。 -
経営課題への戦略的対応:
人材確保・定着、コスト上昇、制度改正対応など、共通する経営課題に対し、各法人が強みを活かした独自の解決策を模索し、実践しています。 -
未来に向けた事業モデルの進化:
統合型ケア、デジタル活用、地域共生型サービスなど、今後5年間で発展が予想される事業モデルに向けた準備や試みが始まっています。
障害福祉サービス事業の成功に向けては、単一の「正解」はなく、各法人の理念、強み、地域特性、対象利用者層などを踏まえた独自の事業モデルの構築と継続的な改善が重要です。また、環境変化に柔軟に対応できるレジリエンスの高い組織づくりと、長期的視点に立った戦略的経営が、今後ますます求められるでしょう。
本分析は2025年3月時点のWAMデータに基づき、2024年9月との比較により事業モデル別の特性を分析したものです。全ての数値は公開データを基に算出しており、一部推計を含みます。経営指標は公開されている財務データと独自調査に基づいています。本記事が事業者の皆様の持続可能な事業運営モデル構築に寄与することを願っています。