障害福祉サービス市場概況分析（2025年9月版）

概要

本分析は、2025年9月時点のWAM（独立行政法人福祉医療機構）データに基づき、日本全国の障害福祉サービス市場の全体像を詳細に分析したものです。2025年3月データとの比較分析に加えて、2021年11月からの長期トレンドを含めて市場の成長動向と構造変化を明らかにします。

市場規模の概況

全体統計

2025年9月時点

• 総施設数: 203,589施設（前回比+5,881施設、+3.0%成長）
• 総定員数: 1,383,988名（前回比+54,019名、+4.1%成長）
• サービス種別: 29種類（変更なし）
• 対象地域: 全国47都道府県

成長トレンド分析

6ヶ月間（2025年3月→2025年9月）での成長実績：

• 施設数の増加: +5,881施設
• 定員数の増加: +54,019名

この成長率は前期（+6,759施設、+3.5%成長）と比較して若干の鈍化が見られますが、市場全体としては安定した成長を維持しています。総定員数の成長率（+4.1%）が施設数の成長率（+3.0%）を上回っており、既存施設の規模拡大や定員増が進んでいることを示しています。

市場規模の長期時系列推移

過去4年の障害福祉サービス市場の推移を見ると、以下のような変動が確認できます。

この推移から、市場は2021年から2023年前半までは比較的緩やかな成長を続けていましたが、2023年後半から2024年にかけて急速に成長が加速し、2025年に入って安定した成長ペースに落ち着いていることがわかります。2021年11月から2025年9月までの約4年間で、総施設数は約5.8万施設増加（+39.5%）し、平均して年間約9%の成長率を維持しています。

施設数と定員数の関係

定員を持つサービスの平均定員数は以下のように推移しています：

• 2021年11月：15.1名/施設
• 2023年3月：15.1名/施設
• 2024年3月：14.8名/施設
• 2024年9月：14.6名/施設
• 2025年3月：14.5名/施設
• 2025年9月：14.5名/施設

全体として、一施設あたりの平均定員数は2024年まで緩やかに減少傾向にありましたが、2025年に入って安定化しています。これは小規模・専門特化型の事業所展開が一段落し、市場が成熟期に入りつつあることを示唆しています。

サービス構成分析

主要サービス別構成比（2025年9月）

1. 居宅介護: 24,812施設（12.2%）【前回比+364施設、+1.5%成長】
2. 放課後等デイサービス: 24,156施設（11.9%）【前回比+1,125施設、+4.9%成長】
3. 重度訪問介護: 20,803施設（10.2%）【前回比+192施設、+0.9%成長】
4. 就労継続支援B型: 19,909施設（9.8%）【前回比+875施設、+4.6%成長】
5. 児童発達支援: 16,247施設（8.0%）【前回比+890施設、+5.8%成長】

前回と比較して、上位5サービスの順位に変化が見られます。児童発達支援が共同生活援助を抜いて第5位に浮上しており、児童向けサービスの需要が引き続き強いことを示しています。また、放課後等デイサービスと就労継続支援B型の成長率が高く、それぞれ+4.9%、+4.6%の成長を記録しています。

サービス別成長率ランキング

成長率の高いサービス（前回比）

1. 保育所等訪問支援: +11.2%（3,711施設、前回3,338施設）
2. 自立訓練(機能訓練): +7.1%（285施設、前回266施設）
3. 児童発達支援: +5.8%（16,247施設、前回15,357施設）
4. 放課後等デイサービス: +4.9%（24,156施設、前回23,031施設）
5. 就労継続支援B型: +4.6%（19,909施設、前回19,034施設）

継続的に高い成長を示しているのが、保育所等訪問支援（+11.2%）です。この高成長は、障害児の地域生活支援や保育所・学校との連携強化の政策方針を反映しています。また、児童発達支援と放課後等デイサービスも安定した成長を維持しており、児童系サービス全体の需要の高さを示しています。

成長率の低いサービス（前回比）

1. 医療型児童発達支援: -30.4%（39施設、前回56施設）
2. 重度障害者等包括支援: -5.0%（19施設、前回20施設）
3. 宿泊型自立訓練: -1.8%（224施設、前回228施設）
4. 就労移行支援: -0.8%（3,389施設、前回3,418施設）
5. 自立訓練(生活訓練): -0.1%（1,626施設、前回1,627施設）

医療型児童発達支援の大幅減少（-30.4%）は、児童発達支援への統合が進んでいることを反映しています。また、就労移行支援が減少（-0.8%）に転じており、就労継続支援への移行や就労定着支援への重点シフトが背景にあると考えられます。

サービスカテゴリー別分析

2025年9月時点のカテゴリー別割合

1. 通所・日中活動系サービス: 92,436施設（45.4%）

   • 総定員数: 1,230,469名
   • 代表的サービス: 生活介護、放課後等デイサービス、就労継続支援B型

2. 訪問系サービス: 60,350施設（29.6%）

   • 代表的サービス: 居宅介護、重度訪問介護、同行援護

3. 居住・入所系サービス: 19,287施設（9.5%）

   • 総定員数: 153,519名
   • 代表的サービス: 施設入所支援、共同生活援助、福祉型障害児入所施設

4. 相談・支援系サービス: 31,516施設（15.5%）

   • 代表的サービス: 計画相談支援、障害児相談支援、就労定着支援

サービスカテゴリー別成長率（前期比）

通所・日中活動系サービスが最も多くの施設数増加を示し、訪問系サービスは成長率がやや低下しています。相談・支援系サービスは市場全体と同程度の成長率を維持しており、利用者の自立を支援するコーディネーション機能の重要性が継続していることを示しています。

法人形態別の市場構成

法人形態別施設数

2025年9月時点の運営法人タイプ

1. 株式会社: 76,545施設（37.6%）

   • 平均定員: 4.8名（小規模施設中心）
   • 前回比: +3,798施設（+5.2%成長）
   • 主な提供サービス: 訪問系、児童系サービス

2. 社会福祉法人: 53,535施設（26.3%）

   • 平均定員: 11.2名（中・大規模施設）
   • 前回比: +32施設（+0.1%成長）
   • 主な提供サービス: 生活介護、施設入所支援

3. NPO法人: 20,481施設（10.1%）

   • 平均定員: 6.3名（中小規模）
   • 前回比: +66施設（+0.3%成長）
   • 主な提供サービス: 就労継続支援B型、地域活動支援

4. その他: 53,028施設（26.0%）

   • 医療法人、合同会社、一般社団法人など
   • 平均定員: 5.4名
   • 前回比: +1,985施設（+3.9%成長）

株式会社の構成比は前回の36.8%から37.6%へと増加しており、市場におけるその存在感がさらに強まっています。社会福祉法人とNPO法人の成長率は低く、それぞれ+0.1%、+0.3%にとどまっています。一方、「その他」の法人形態は+3.9%と高い成長率を示しており、一般社団法人や合同会社などの多様な経営主体による参入が続いています。

法人形態別の長期トレンド

2021年11月から2025年9月までの法人形態別の変化

長期的に見ると、株式会社の伸びが最も顕著で、約4年間で約75%という急激な成長を遂げています。これに対し、社会福祉法人は8.0%と比較的緩やかな成長にとどまっており、従来の公益性重視の事業体から、より機動的な営利企業への市場シフトが明確に表れています。

市場の発展段階と成熟度

市場成熟度の指標

以下の指標から、障害福祉サービス市場の成熟度を分析します：

1. 成長率の変動:

   • 2022年～2023年前半: 緩やかな成長（2.4%～4.3%）
   • 2023年後半～2024年: 急速な成長（6.3%～8.6%）
   • 2025年: 安定成長（3.0%～3.5%）

   成長率の変動は、市場が急成長フェーズから安定成長フェーズへ移行したことを示しています。

2. サービス普及率:

   • 人口10万人あたり障害福祉サービス事業所数: 162.6事業所（2025年9月時点）
   • 2021年11月時点: 116.3事業所

   人口あたりの事業所数は約40%増加しており、サービスの普及が着実に進んでいます。

3. 競争環境の変化:

   • 放課後等デイサービスや就労継続支援B型など成熟したサービスでも+4.5%以上の成長を維持
   • 保育所等訪問支援など新興サービスでは+11%以上の高成長

   サービス種別によって成長率に差があるものの、全体として安定した成長が継続しています。

市場発展の地域差

地域によって市場の成熟度に顕著な差が見られます：

• 大都市圏（東京・大阪・名古屋）: 成熟段階（安定成長、高競争環境、専門特化型の増加）
• 地方中核市: 成長段階（中程度の成長率、バランスのとれた競争環境）
• 地方小都市・郡部: 発展段階（供給不足地域あり、基本サービス中心）

地域間の発展格差は縮小傾向にあるものの、依然として大都市圏と地方では市場環境が異なります。

長期トレンドからみる今後の見通し

2021年11月から2025年9月までの長期データから、以下のトレンドが明確になっています：

1. 成長率の安定化:
   2024年の急成長期を経て、2025年は年率3%前後の安定した成長ペースに落ち着いています。

2. サービスの多様化・専門化:
   基本的なサービス（居宅介護、生活介護等）の成長率が低下する一方、保育所等訪問支援や児童発達支援などの専門的なサービスが高成長を維持しています。

3. 法人形態の多様化:
   従来の社会福祉法人中心から、株式会社、NPO法人、合同会社、一般社団法人など多様な経営主体によるサービス提供が進んでいます。

4. 定員規模の安定化:
   一事業所あたりの平均定員数の減少傾向が止まり、サービス種別ごとの適正規模が確立されつつあります。

5. 児童系サービスの継続的成長:
   児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援など児童向けサービスの高成長が継続しています。

今後5年間の予測

現在の長期トレンドをもとに、今後5年間（2025年～2030年）の展望を予測します：

1. 成長率: 年平均2.5～3.5%程度の安定成長が継続すると予想されます。急速な拡大期は終わり、成熟した市場としての安定期に入っています。

2. サービス構成: 児童系サービス、自立支援・地域生活支援・就労定着支援に関するサービスの比重が高まり、入所系サービスの相対的比率は低下すると予想されます。

3. 事業者構造: 株式会社の市場シェアが40%を超え、多店舗展開の大規模事業者と専門特化型の小規模事業者への二極化が進むと考えられます。

4. 地域格差: 都市部での競争激化と地方での基盤整備が進み、地域間格差は縮小する方向に進むでしょう。

5. サービス質: 量的拡大から質的向上へと政策的な重点がシフトし、サービス評価や第三者評価の重要性が増すと予想されます。

総括と考察

2025年9月時点の障害福祉サービス市場は、安定成長期に入り、量的拡大と質的な変化が並行して進んでいます。総施設数は20.4万施設に達し、2021年11月から約40%増加という着実な成長を示していますが、成長率は3.0%と落ち着いてきています。

市場の成熟化に伴い、単純な量的拡大よりも、サービスの質や専門性、効果的な連携が重視される段階に入っています。特に、児童系サービスや保育所等訪問支援の高成長は、早期支援と地域連携への需要の高まりを反映しています。

法人形態の多様化は、様々な視点やアプローチによるサービス提供の可能性を広げる一方で、サービスの質の確保や安定的な運営の継続性という課題も提起しています。

今後の報酬改定では、質の向上や効率的な運営を促す方向性が強まると予想され、事業者には専門性の強化や連携体制の構築、ICT活用などによる運営効率化がより一層求められるでしょう。

本分析は2025年9月時点のWAMデータに基づき、2025年3月との比較により障害福祉サービス市場全体の動向を分析したものです。全ての数値は公開データを基に算出しており、一部推計を含みます。長期トレンド分析は2021年11月からのデータを使用しています。本記事が事業者の皆様の事業戦略立案や市場理解に寄与することを願っています。