定員・利用率分析(2025年9月版)
概要
本分析は、2025年9月時点のWAMデータに基づき、障害福祉サービス事業所の定員規模と運営効率との相関を分析したものです。2025年3月データとの比較に加え、2021年11月からの長期トレンド分析も含め、最適な事業規模の考察と効率的な運営のあり方を探ります。
サービス別の定員分析
主要サービスの平均定員数
2025年9月時点の主要サービス別平均定員数
| サービス種別 | 平均定員数 | 事業所数 | 総定員数 |
|---|---|---|---|
| 療養介護 | 86.6名 | 267施設 | 23,113名 |
| 施設入所支援 | 49.0名 | 2,554施設 | 125,266名 |
| 生活介護 | 24.6名 | 13,049施設 | 320,859名 |
| 就労継続支援B型 | 17.7名 | 19,909施設 | 352,459名 |
| 就労継続支援A型 | 15.7名 | 4,633施設 | 72,692名 |
| 宿泊型自立訓練 | 16.7名 | 224施設 | 3,732名 |
| 自立訓練(機能訓練) | 17.3名 | 285施設 | 4,923名 |
| 自立訓練(生活訓練) | 11.6名 | 1,626施設 | 18,816名 |
| 就労移行支援 | 11.7名 | 3,389施設 | 39,769名 |
| 児童発達支援 | 9.1名 | 16,247施設 | 148,428名 |
| 放課後等デイサービス | 8.5名 | 24,156施設 | 205,765名 |
| 短期入所 | 4.8名 | 8,836施設 | 42,660名 |
主要サービス別の平均定員数(2025年9月)
前回(2025年3月)との比較では、ほとんどのサービスで平均定員数に大きな変化は見られません。これは市場が成熟期に入り、各サービスの適正規模がある程度確立されてきたことを示しています。
長期的な平均定員数の推移(2021年11月~2025年9月)
主要サービスの平均定員数の長期推移
サービス種別ごとの平均定員数は、約4年間の期間でも比較的安定しています。入所系・居住系サービスでは微増傾向、通所系・児童系サービスでは安定または微減傾向が見られます。
定員規模別の施設分布
2025年9月時点の定員規模別施設分布
| 定員規模 | 施設数 | 構成比 | 平均定員 |
|---|---|---|---|
| 大規模(30名以上) | 9,986施設 | 12.3% | 49.8名 |
| 中規模(11〜30名) | 25,730施設 | 31.8% | 19.4名 |
| 小規模(10名以下) | 45,186施設 | 55.9% | 8.6名 |
定員規模別の施設数分布(2025年9月)
定員を持つサービスにおいて、小規模施設(10名以下)が過半数(55.9%)を占めており、小規模・専門特化型の事業展開が主流となっています。
規模別の収益性と運営効率
定員規模と収益性の相関
定員規模と収益性には引き続き強い相関関係が見られます。規模が大きいほど固定費の分散効果が得られること、間接業務の効率化が図れること、人材配置の最適化が可能になることなどが要因です。
規模別の運営効率指標
定員規模別の主要運営指標(2025年9月時点・推計)
| 定員規模 | 人件費率 | 職員1人あたり利用者数 |
|---|---|---|
| 小規模(10名以下) | 73.5% | 2.2名 |
| 中規模(11〜30名) | 69.8% | 2.9名 |
| 大規模(30名以上) | 66.5% | 3.2名 |
大規模事業者は経営効率の面で優位性を持っており、特に低い人件費率が特徴的です。小規模と大規模を比較すると、人件費率に7.0%ポイントの差があります。
各地域による定員設定の傾向
都市部と地方部の比較
地域別の平均定員数(主要サービス)
| サービス種別 | 大都市圏平均 | 地方圏平均 | 差異 |
|---|---|---|---|
| 生活介護 | 23.1名 | 26.8名 | +3.7名 |
| 就労継続支援B型 | 16.9名 | 18.8名 | +1.9名 |
| 放課後等デイサービス | 8.2名 | 8.9名 | +0.7名 |
| 共同生活援助 | - | - | - |
地方圏と大都市圏の定員規模の差は継続して確認されており、地方圏の方が平均定員数が大きい傾向があります。この地域差が生じる要因として、①地方では施設数が少ないため1施設あたりのカバー範囲が広い、②地方は土地・建物コストが低く広いスペースを確保しやすい、③地方では複数サービス機能を集約した多機能型事業所が多い、などが考えられます。
人口密度と定員サイズの相関
人口密度別の平均定員数(生活介護・就労継続支援B型の平均)
| 人口密度(人/km²) | 平均定員数 | 特徴 |
|---|---|---|
| 5,000以上(東京23区等) | 20.5名 | 小規模・専門特化型が主流 |
| 1,000〜5,000(中核市等) | 22.3名 | バランス型が多い |
| 300〜1,000(地方都市) | 24.2名 | 中規模総合型が中心 |
| 300未満(郡部等) | 27.8名 | 大規模多機能型が中心 |
人口密度と定員規模の間には明確な相関関係があり、人口密度が低いほど平均定員数が大きくなっています。
最適定員規模の検討
サービス別の最適規模
各サービスの運営実績データから分析した最適規模の考察は以下の通りです:
生活介護
- 推奨定員規模: 20〜40名(地域特性による)
- 理由: 入浴・排泄・食事介助の効率化、専門職の適正配置
就労継続支援B型
- 推奨定員規模: 20〜30名(作業内容による)
- 理由: 生産活動の効率化、多様な作業種の確保、固定費の分散
放課後等デイサービス
- 推奨定員規模: 10~15名(支援内容による)
- 理由: 個別支援の質確保と運営効率のバランス
共同生活援助
- 推奨定員規模: 本体10名前後+サテライト型
- 理由: 家庭的環境の維持と夜間支援体制の効率化の両立
地域特性による最適規模の違い
地域の人口密度や交通アクセス、競合状況などによって最適な定員規模は異なります:
地域別の推奨定員規模(生活介護の例)
| 地域特性 | 推奨定員規模 | 根拠 |
|---|---|---|
| 大都市中心部 | 15〜25名 | 高い土地・建物コスト、交通利便性 |
| 大都市周辺部 | 20〜35名 | 中程度の土地コスト、適度な人口密度 |
| 地方中核市 | 25〜40名 | 広域からの通所可能性 |
| 郡部 | 30〜50名 | より広域からの利用者確保、多機能化の必要性 |
小規模事業所の生存戦略
定員規模によるスケールメリットがある中で、小規模事業所が存続・成長するための戦略を分析します。
成功している小規模事業所の特徴
-
専門特化型
- 特徴: 特定の障害や支援手法に特化した専門性の高いサービス提供
- 成功要因: 高い専門性による差別化、専門職の確保
-
地域密着型
- 特徴: 特定地域に根差した強い地域連携と信頼関係
- 成功要因: 地域からの紹介の多さ、地域資源の有効活用
-
連携型
- 特徴: 他機関・他事業所との密接な連携による機能補完
- 成功要因: 連携先からの安定した利用者紹介
-
複合型
- 特徴: 複数の小規模サービスの組み合わせによる相互補完
- 成功要因: 間接コストの分散、サービス間の利用者移行
小規模から中規模への段階的成長モデル
定員規模の最適化を段階的に進めるための成長モデル(就労継続支援B型の例):
- 立ち上げ期(定員10~15名): 地域ニーズの把握と特色ある事業コンセプト確立
- 安定期(定員15~20名): 作業種の拡大と生産活動の安定化
- 拡大期(定員20~25名): 職業指導と生活支援の専門性向上
- 成熟期(多機能化・複数展開): 定員の適正維持と多機能化
定員と運営の最適化戦略
運営改善のための施策
安定した運営を実現するための効果的な施策:
- 予約・キャンセル管理の最適化: キャンセル率の分析と代替利用者確保システムの構築
- ターゲット利用者層の明確化: サービスの強みに合った利用者ニーズの特定
- サービス質の向上と可視化: 支援の質向上と効果の見える化
- 関係機関との連携強化: 紹介元となる機関との信頼関係構築
- 送迎範囲の最適化: 利用ニーズと効率性を両立した送迎エリア設定
定員変更の判断基準
定員の増減を検討する際の判断基準:
定員増加を検討すべき条件:
- 継続的に高い利用率を維持している
- 安定した利用希望の待機者がいる
- 人員体制と設備の余力がある
定員減少を検討すべき条件:
- 継続的に低い利用率が続いている
- 営業努力が成果を上げていない
- 現状の人員体制維持が収益を圧迫している
総括と今後の展望
2025年9月時点の定員分析から、以下の特徴と今後の展望が見えてきます:
-
規模の効率化と専門化の両極化:
- 効率性を重視した大規模施設の安定した運営
- 専門性を特化した小規模施設の差別化戦略
- 中規模施設の変革の必要性
-
地域特性に応じた適正規模の確立:
- 都市部と地方での明確な定員規模の差異
- 人口密度と定員サイズの相関関係の安定
- 地域特性に対応した柔軟な定員設計の重要性
-
サービス種別ごとの適正規模の確立:
- 各サービスの特性に応じた最適定員規模
- 段階的な成長による安定経営の重要性
- 急激な拡大よりも質を重視した堅実な展開
今後の展望として、事業運営においては「規模の適正化」と「専門性による差別化」のバランスが一層重要となると予想されます。また、ICTの活用による業務効率化や、関係機関との連携強化による安定した利用者確保など、戦略的取り組みがさらに進むと考えられます。
本分析は2025年9月時点のWAMデータに基づき、2025年3月との比較により事業所規模と定員数を分析したものです。全ての数値は公開データを基に算出しており、一部推計を含みます。本記事が事業者の皆様の最適な事業規模検討と効率的な運営に寄与することを願っています。