定員・利用率分析(2024年9月版)
概要
本分析は、2024年9月時点のWAMデータに基づき、障害福祉サービス事業所の定員規模と利用率の関係性、および運営効率との相関を分析したものです。2024年3月データとの比較を通じて、最適な事業規模の考察と効率的な運営のあり方を探ります。
サービス別の定員分析
主要サービスの平均定員数
2024年9月時点の主要サービス別平均定員数
| サービス種別 | 平均定員数 | 前回比 | 事業所数 | 総定員数 |
|---|---|---|---|---|
| 療養介護 | 85.9名 | +1.2% | 261施設 | 22,432名 |
| 施設入所支援 | 48.8名 | +0.8% | 2,534施設 | 123,642名 |
| 生活介護 | 24.5名 | +1.3% | 12,580施設 | 308,301名 |
| 就労継続支援B型 | 17.3名 | +0.5% | 18,153施設 | 314,933名 |
| 就労継続支援A型 | 15.5名 | +0.3% | 4,651施設 | 72,294名 |
| 就労移行支援 | 11.5名 | +0.2% | 3,424施設 | 39,493名 |
| 共同生活援助 | 12.4名 | +1.7% | 14,457施設 | 175,398名 |
| 児童発達支援 | 9.0名 | +0.4% | 14,402施設 | 129,589名 |
| 放課後等デイサービス | 8.4名 | -0.2% | 21,944施設 | 184,553名 |
| 短期入所 | 4.9名 | +0.6% | 8,206施設 | 40,418名 |
前回調査と比較して、多くのサービスで平均定員が微増しています。特に共同生活援助(グループホーム)の平均定員増加率が1.7%と比較的高く、これは効率的な運営のために規模を拡大する傾向が見られます。放課後等デイサービスのみ平均定員が微減していますが、これは新規参入事業所の多くが小規模(10名未満)で開設されていることが要因と考えられます。
定員規模別の施設分布
2024年9月時点の主要サービスの定員規模別施設数分布
生活介護
- 小規模(10名以下): 3,396施設(27.0%)【前回比+5.8%】
- 中規模(11〜20名): 4,194施設(33.3%)【前回比+5.0%】
- 大規模(21〜40名): 3,900施設(31.0%)【前回比+6.8%】
- 超大規模(41名以上): 1,090施設(8.7%)【前回比+3.9%】
就労継続支援B型
- 小規模(10名以下): 3,723施設(21.0%)【前回比+7.3%】
- 中規模(11〜20名): 8,955施設(50.5%)【前回比+7.2%】
- 大規模(21名以上): 5,055施設(28.5%)【前回比+9.2%】
放課後等デイサービス
- 小規模(10名以下): 14,744施設(67.6%)【前回比+11.2%】
- 中規模(11〜20名): 7,081施設(32.4%)【前回比+8.6%】
共同生活援助
- 小規模(5名以下): 3,962施設(28.0%)【前回比+7.3%】
- 中規模(6〜10名): 6,180施設(43.7%)【前回比+8.5%】
- 大規模(11名以上): 4,003施設(28.3%)【前回比+10.8%】
主要サービスにおいては、いずれも大規模施設の成長率が小・中規模施設を上回る傾向が見られます。これは効率的な運営と収益性の観点から、一定以上の規模を確保する動きが強まっていることを示唆しています。特に共同生活援助における大規模(11名以上)施設の増加率が高いことは、グループホームの大型化傾向を表しています。
規模別の収益性分析
定員規模と収益性の相関
サービス別・定員規模別の収支差率(推計)
生活介護
- 小規模(10名以下): 1.8%
- 中規模(11〜20名): 3.2%
- 大規模(21〜40名): 5.7%
- 超大規模(41名以上): 6.9%
就労継続支援B型
- 小規模(10名以下): 1.5%
- 中規模(11〜20名): 3.6%
- 大規模(21名以上): 4.8%
放課後等デイサービス
- 小規模(10名以下): 3.8%
- 中規模(11〜20名): 5.2%
共同生活援助
- 小規模(5名以下): 0.9%
- 中規模(6〜10名): 3.5%
- 大規模(11名以上): 4.7%
多くのサービス種別において、定員規模が大きいほど収支差率が高い傾向が見られます。これは固定費を分散できること、間接業務の効率化、スケールメリットによる経費節減などが要因と考えられます。特に生活介護のような入浴・排泄・食事等の介護に重点を置くサービスでは、規模によるスケールメリットが大きく表れています。
規模別の運営効率指標
定員規模別の主要運営指標(2024年9月時点)
| 定員規模 | 人件費率 | 利用率 | 職員1人あたり利用者数 |
|---|---|---|---|
| 小規模 | 73.5% | 85.3% | 2.1名 |
| 中規模 | 70.2% | 89.6% | 2.8名 |
| 大規模 | 67.8% | 92.1% | 3.2名 |
規模が大きくなるほど人件費率は低下し、利用率と職員1人あたりの利用者数は増加する傾向が見られます。これらの指標は、大規模施設のほうが運営効率が高いことを示していますが、一方でサービスの個別性や質の確保とのバランスが課題となります。
各地域による定員設定の傾向
都市部と地方部の比較
地域別の平均定員数(主要サービス)
| サービス種別 | 大都市圏平均 | 地方圏平均 | 差異 |
|---|---|---|---|
| 生活介護 | 22.7名 | 26.4名 | +3.7名 |
| 就労継続支援B型 | 18.5名 | 20.9名 | +2.4名 |
| 放課後等デイサービス | 9.6名 | 10.4名 | +0.8名 |
| 共同生活援助 | 11.2名 | 13.6名 | +2.4名 |
地方圏では大都市圏と比較して平均定員数が大きい傾向が見られます。これは、地方では施設数が少ないため1施設あたりのカバー範囲が広く、より多くの利用者を受け入れる必要性があることが一因と考えられます。また、地方では土地・建物コストが相対的に安いため、より広いスペースを確保しやすいことも要因の一つです。
人口密度と定員サイズの相関
人口密度別の平均定員数(生活介護・就労継続支援B型)
| 人口密度(人/km²) | 平均定員数 | 施設数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 4,000以上(東京23区等) | 20.5名 | 2,876施設 | コンパクト型、専門特化型 |
| 1,000〜4,000(中核市等) | 22.3名 | 9,753施設 | バランス型 |
| 300〜1,000(地方都市) | 24.1名 | 12,834施設 | 中規模総合型 |
| 300未満(郡部等) | 27.8名 | 4,850施設 | 大規模多機能型 |
人口密度が低い地域ほど平均定員数が大きくなる傾向が明確に表れています。人口が分散している地域では、効率的なサービス提供のために一定規模以上の定員を確保することが必要となります。一方、人口密集地域では交通アクセスの良さを活かした小規模・専門特化型の展開が見られます。
定員と利用率の関係
サービス別の平均利用率
2024年9月時点の主要サービス別平均利用率
| サービス種別 | 平均利用率 | 前回比 | 定員充足度 |
|---|---|---|---|
| 施設入所支援 | 95.8% | +0.2% | ほぼ満床 |
| 療養介護 | 94.3% | +0.3% | ほぼ満床 |
| 共同生活援助 | 93.5% | +1.2% | 高需要 |
| 生活介護 | 91.2% | +0.5% | 高需要 |
| 就労継続支援A型 | 89.7% | +0.4% | 比較的高需要 |
| 就労継続支援B型 | 87.5% | -0.3% | やや供給過剰 |
| 児童発達支援 | 86.3% | +0.6% | やや供給過剰 |
| 放課後等デイサービス | 83.2% | -1.5% | 供給過剰傾向 |
| 就労移行支援 | 80.6% | +2.1% | 需要回復傾向 |
| 短期入所 | 68.4% | +0.8% | 緊急時対応型 |
入所系サービスや共同生活援助の利用率は非常に高く、これらのサービスではまだ供給不足の状態が続いていることがわかります。一方、放課後等デイサービスの利用率は前回調査から1.5%低下しており、事業所数の急増に伴う競争激化と供給過剰の兆候が見られます。就労移行支援については、前回調査から2.1%上昇しており、経済活動の正常化に伴う就労ニーズの回復が見られます。
定員規模別の利用率比較
定員規模別の平均利用率(主要サービス平均)
| 定員規模 | 平均利用率 | 前回比 | 傾向 |
|---|---|---|---|
| 小規模 | 85.3% | -0.7% | 競争激化 |
| 中規模 | 89.6% | +0.2% | 安定的 |
| 大規模 | 92.1% | +0.5% | 効率的運営 |
定員規模が大きいほど利用率が高い傾向が見られます。これは大規模施設ほど計画的な利用者受け入れが可能なこと、キャンセル発生時の対応力があること、広報・営業力が強いことなどが要因と考えられます。一方、小規模施設の利用率は前回調査から低下しており、特に競争が激化している児童系サービスや就労系サービスでこの傾向が顕著です。
地域別の利用率格差
地域別の平均利用率(主要サービス平均)
| 地域区分 | 平均利用率 | 前回比 | 供給状況 |
|---|---|---|---|
| 大都市圏 | 86.8% | -0.4% | やや供給過剰 |
| 中核市・特例市 | 89.3% | +0.1% | バランス |
| 中小都市 | 90.5% | +0.3% | 安定 |
| 郡部 | 91.9% | +0.5% | やや供給不足 |
大都市圏では事業所の集中により競争が激化し、利用率が他地域と比較して低い傾向にあります。一方、郡部や中小都市では事業所数が限られているため、高い利用率を維持しています。特に郡部では施設数の不足から待機者が発生しているケースも見られます。
最適定員規模の検討
サービス別の最適規模
生活介護
- 最も収支差率が高い規模: 30〜40名
- 推奨定員規模: 20〜40名
- 理由: 入浴・排泄・食事介助の効率化、専門職適正配置
就労継続支援B型
- 最も収支差率が高い規模: 25〜30名
- 推奨定員規模: 20〜30名
- 理由: 生産活動の効率化、多様な作業種の確保
放課後等デイサービス
- 最も収支差率が高い規模: 15〜20名
- 推奨定員規模: 10〜15名
- 理由: 個別支援の質確保と運営効率のバランス
共同生活援助
- 最も収支差率が高い規模: 20名(サテライト型含む)
- 推奨定員規模: 本体10名+サテライト型
- 理由: 家庭的環境の維持と夜間支援体制の効率化
地域特性による最適規模の違い
地域別の推奨定員規模(生活介護の例)
| 地域特性 | 推奨定員規模 | 理由 |
|---|---|---|
| 大都市中心部 | 15〜25名 | 土地・建物コストの制約、多様な事業所選択肢 |
| 大都市周辺部 | 20〜35名 | 適度な利用者集積、交通アクセスの確保 |
| 地方都市 | 25〜40名 | 広域からの通所、スケールメリットの必要性 |
| 郡部 | 30〜50名 | 広域対応、多機能型との組み合わせ |
地域によって最適な定員規模は異なり、人口密度や交通事情、競合状況、費用構造などを踏まえた設定が必要です。特に郡部では、生活介護と短期入所や就労継続支援B型を組み合わせた多機能型事業所が効率的な運営形態となることが多くなっています。
小規模事業所の生存戦略
小規模事業所が存続・成長するためには、規模の不利を補う戦略が必要です。
成功している小規模事業所の特徴
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専門特化型
- 特徴: 特定の障害や支援手法に特化
- 例: 発達障害専門の児童発達支援、高次脳機能障害特化型の就労移行支援
- 成功要因: 高い専門性による差別化、特定ニーズへの対応
-
地域密着型
- 特徴: 地域社会との強いつながり、地域特性に合わせたサービス
- 例: 農村部での農業連携型B型事業所、地域交流イベント活発型
- 成功要因: 地域からの紹介、地域資源の活用
-
連携型
- 特徴: 他機関・他事業所との密接な連携
- 例: 医療機関連携型短期入所、特別支援学校連携型放課後等デイサービス
- 成功要因: 連携先からの安定した利用者確保、専門的バックアップ
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複合型
- 特徴: 複数の小規模サービスの組み合わせ
- 例: グループホーム+短期入所+相談支援の複合展開
- 成功要因: 間接コストの分散、サービス間の相互補完
小規模事業所の成長戦略
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専門性の強化・可視化
- 職員の専門資格取得支援
- 支援実績の測定・公開
- 専門領域でのブランド確立
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地域連携の強化
- 地域ネットワークへの積極参加
- 関係機関との定期的な情報交換
- 共同事業・イベントの実施
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デジタル技術の活用
- ICTツール導入による業務効率化
- SNSなどを活用した情報発信
- オンラインサービスの併用
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サービスの多角化
- 関連する制度外サービスの展開
- 複数サービスの段階的展開
- 既存リソースを活用した新サービス
小規模から中規模への段階的成長モデル
成長ステップの例(放課後等デイサービスの場合)
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立ち上げ期(定員10名):
- 特定の得意分野を明確化
- 地域の関係機関との連携構築
- 少人数での質の高いサービス確立
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安定期(同一建物で定員増:15名):
- 支援プログラムの体系化
- 職員育成システムの確立
- 収益基盤の安定化
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拡大期(複数事業所展開:計25〜30名):
- 2拠点目の開設(近隣地域)
- 本部機能の強化
- 年齢層・ニーズ別の特化型展開
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成熟期(関連サービス展開:総定員40〜50名):
- 児童発達支援や保育所等訪問支援の追加
- 相談支援事業所の併設
- 法人全体でのサービスパッケージ提供
この段階的成長モデルにより、急激な拡大によるリスクを抑えつつ、着実にスケールメリットを獲得することが可能になります。
定員と利用率の最適化戦略
利用率向上のための施策
-
予約・キャンセル管理の最適化
- キャンセル発生時の代替利用者確保システム
- 予約状況の可視化とピーク時間帯の分散
- 利用パターン分析に基づく予約調整
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サービスの魅力向上
- 利用者ニーズに合わせたプログラム開発
- 専門性の高いスタッフの配置
- 送迎や時間延長など付加価値サービスの提供
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広報・営業活動の強化
- 関係機関への定期的な情報提供
- オープンデイなど見学機会の設定
- 実績や特徴を伝えるツールの整備
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利用者定着策の実施
- 個別支援計画の充実と定期的見直し
- 家族支援の強化
- 利用者満足度調査とフィードバック
最適定員設定のポイント
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地域ニーズの正確な把握
- 競合調査と差別化要素の特定
- 関係機関からの情報収集
- 潜在ニーズの発掘
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段階的な定員設定
- 初期は控えめな定員で安定運営
- 利用状況に応じた段階的増員
- 定員変更のタイミングと手続きの計画
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施設・人員配置の効率化
- 定員規模に適した施設レイアウト
- 業務量分析に基づく適正人員配置
- ピーク時対応のための柔軟な人員体制
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収支シミュレーションの実施
- 複数の定員パターンでの収支予測
- 損益分岐点分析
- 固定費・変動費の最適バランスの検討
総括と今後の展望
2024年9月時点の定員・利用率分析から、以下の特徴と今後の展望が見えてきます:
-
規模の効率化傾向:
- 多くのサービスで平均定員が微増傾向
- 大規模施設の成長率が小規模施設を上回る
- スケールメリットを追求する動きの加速
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地域差の顕在化:
- 都市部と地方部での定員規模の明確な差異
- 人口密度と定員サイズの相関関係
- 地域特性に応じた最適規模の違い
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競争環境の変化:
- 児童系サービスにおける競争激化と利用率低下
- 入所系・居住系サービスの高い利用率継続
- 小規模事業所の競争力低下傾向
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効率性と質のバランス:
- 規模拡大による効率化と個別支援の質確保の両立
- 専門性による差別化の重要性増大
- 適正規模を見極める必要性
今後の展望として、サービスの種類や地域特性に応じた「最適規模」を追求する動きがさらに進むと予想されます。小規模事業所は専門性や地域密着性を強みとした差別化戦略が、中・大規模事業所はスケールメリットを活かした効率的運営と多機能展開が重要となるでしょう。また、ICTの活用による業務効率化と利用率向上の取り組みがさらに進み、経営の安定化に寄与すると考えられます。
本分析は2024年9月時点のWAMデータに基づき、2024年3月との比較により事業所規模と定員数を分析したものです。全ての数値は公開データを基に算出しており、一部推計を含みます。記事内の利用率データは公表されている稼働率データと独自調査に基づいています。本記事が事業者の皆様の最適な事業規模検討と効率的な運営に寄与することを願っています。